2017年8月24日木曜日

ノロウイルス食中毒・感染性胃腸炎について




ノロウイルスによる集団感染
2017年8月4日~13日の10日間の日程でイギリスのロンドンでは、世界陸上競技選手権大会が開催されており、連日テレビで中継されていますが、この大会中に、各国の選手団が宿泊している公式ホテルの一つで、胃腸炎などの体調不良者が続出し、症状を訴えている人々は、約50名にものぼり、そのうち数名からノロウイルスが確認されているという報告がありました。

ノロウイルスについて
ノロウイルスとは、遺伝子として一本鎖RNAを持ち、エンベローブを有さないRNAウイルスであり、このノロウイルスを起因とする食中毒や感染性胃腸炎は、一年を通して発生し、特に冬季(10月~3月)に多発しています。尚、ノロウイルスは人の手指や食品を介して経口で感染し、ヒトの腸内で増殖します。症状としては、おう吐、下痢、腹痛などを引き起こし、健康な人であれば、2~3日で快方に向かいますが、子供や高齢者などでは重篤化したり、吐物を気道に詰まらせて死亡する事もあります。又、ノロウイルスはワクチンがなく、治療方法も輸血などの対症療法に限られているのが実情です。
ノロウイルスは感染後、凡そ1~2日の潜伏期の後に発症し、2~3日で回復に向かいますが、小児では3週間以上、成人では2~3週間に渡り、糞便にはこのノロウイルスが潜伏したままの状態で排出されます。
尚、摂取してから、15時間後には発症前であっても感染した人の糞便に含まれているノロウイルスが排出され始め、摂取後1~3日後にこの排出のピークが見られると言われています。しかも、無症候性保菌者も多く、十分な注意が必要です。


食中毒と感染性胃腸炎の違い
ノロウイルスによる「食中毒」と「感染性胃腸炎」の違いは、どちらもノロウイルスに感染した事を意味していますが、関係する法律の定義の違いによって分類されています。
尚、その取り扱いについては、ウイルスに汚染された食品を摂取する場合には「食中毒」、それ以外の原因で発症したものは「感染性胃腸炎」として扱われます。

まとめ
ノロウイルスを起因とする食中毒や感染症は、毎年、拡大傾向にあり、その対策として、厚生労働省におきましても、平成28年度には、国立医薬品食品衛生研究所において作成された「ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書(平成27年度)」を参考資料として、「大量調理施設衛生管理マニュアル」を改定し、この際、調理機械、調理台、調理器具類などは、ノロウイルスに対する不活化効果を期待することが出来る薬剤を選定し使用することや、十分な洗浄が困難な器具類については、有機物存在下でも不活化効果を期待することが出来る、亜塩素酸水又は次亜塩素酸ナトリウム等で浸漬処理し、消毒すること。と明確に記されており、つい先月も、このノロウイルス対策に係る項目が新たに追加・変更され、食品に携わる施設や調理従業者に対する衛生管理の強化と、その徹底が指導されています。
 尚、2020年には東京オリンピック・パラリンピック競技大会も控えており、今回、イギリスで開催された世界陸上競技大会で発生したノロウイルスによる集団感染のような事態を引き起こさない為にも、更なる強化が図られるであろうと予測されます。
そしてまた今年度も、このノロウイルスの流行シーズンが近づいてきています。貴施設の日頃の衛生管理方法や、緊急時の対応方法を、今一度見直され、ノロウイルスを起因とした食中毒や感染症を発生させない管理体制を、これまで以上に、強化された方が良いのではないでしょうか?







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「大量調理施設衛生管理マニュアル(平成29年6月16日付)」の改正について





平成29年06月16日付けで「大量調理施設衛生管理マニュアル」が改正されました。
本マニュアルについては、平成28年07月にも、ノロウイルス食中毒事故に対する措置案として大幅な改正が行われましたが、先般の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒部会において、平成28年度の食中毒発生状況を踏まえ、ノロウイルス対策並びに腸管出血性大腸菌対策に関する議論がなされ、調理従業者等の健康状態の確認に関する重要性が指摘された事によって、新しく改正されることになりました。

今回改正された背景
平成28年度に東京都及び千葉県の老人ホームにおいて合計10名が死亡する腸管出血性大腸菌O-157による食中毒が発生し、関係自治体による調査の結果、未加熱の野菜調理品(きゅうりのゆかり和え)が原因食品であると判明し、この事により、高齢者や若齢者等の抵抗力が弱い方々に、野菜及び果物を加熱せず提供する場合には(表皮を除去する場合を除く。)殺菌処理を施す必要があると定められました。
また、平成29年02月に、きざみのりを原因食品とする大規模なノロウイルス食中毒が発生し、乾物や摂取量が少ない食品も含めて、製造加工業者には、調理従事者の健康状態の問診確認と、その記録の保管に関するノロウイルス対策を適切に行う事が定められました。

主な改正箇所について
今回の改正によって、本マニュアル内に新たに追記もしくは変更された箇所としましては、大きく「原材料の受入れ・下処理段階における管理」に係る改正と、「調理従業者の衛生管理」に係る改正であります。

【原材料の受入れ・下処理段階における管理に係る改正】
①「加熱せずに喫食する食品(乾物や摂取量が少ない食品を含む)を原材料として、受入れる場合は、製造加工業者の衛生管理体制を確認すること。特にノロウイルス対策を適切に行っているのかを確認すること。」と新たに明記されました。

②「高齢者、若齢者及び抵抗力の弱い物を対象とした食事を提供する施設で、野菜及び果物を加熱せずに供する場合(表皮を除去する場合を除く)殺菌すること。」と対象施設が新たに明記されました。

【調理従業者等の衛生管理に係る改正】
①「調理従業者等は、毎日作業開始前に、自らの健康状態を衛生管理者に報告し、衛生管理者はその結果を報告すること。」と新たに明記されました。

②「調理従業者等は臨時従業員も含め、10月から3月までの間には、月に1回以上、又は必要に応じてノロウイルスの検便検査に努めること。」と新たに検便の期間と頻度が明記されました。

③「ノロウイルスの無症状病原体保有者である事が判明した調理従業者は、検便検査においてノロウイルスを保有していない事が確認されるまでの間、食品に直接触れる調理作業を控えるなど適切な措置を取ることが望ましいこと。」と新たに発病に至らない感染が判明した場合の対応が明記されました。

④「これまでノロウイルスの検査に当たっては、リアルタイムPCR法等の高感度の検便検査を実施し、保有の有無を確認する事」とされていましたが、「遺伝子型によらず、概ね1g当たり105オーダーのノロウイルスを検出出来る検査法を用いる事が望ましい。」と変更になりました。


「大量調理施設衛生管理マニュアル」に記載されている野菜・果物の殺菌洗浄方法」
現在、「大量調理施設衛生管理マニュアル」(別添2:標準作業書)(原材料等の保管管理マニュアル)で記載されている野菜・果物の殺菌洗浄方法と、殺菌時に使用することが出来る薬剤は表の通りであります。

【処理方法】
①流水で3回以上水洗いする。
②必要に応じて、次亜塩素酸ナトリウム等で殺菌※した後、流水で十分水洗いする。
③水切りする。
④専用のまな板、包丁でカットする。
⑤清潔な容器に入れる。
⑥清潔なシートで覆い(容器がふた付の場合は除く)、調理まで30分以上を要する場合には、10℃以下で冷蔵保存する。
※水洗い前の工程は省略しています。

【殺菌で使用可能な薬剤】
・次亜塩素酸ナトリウム溶液 (200mg/ℓで5分間又は100mg/ℓで10分間)
・亜塩素酸水(きのこ類を除く)
・亜塩素酸ナトリウム溶液(生食用野菜に限る)
・過酢酸製剤
・次亜塩素酸水
・食品添加物として使用出来る有機酸溶液
※これらを使用する場合、食品衛生法で規定する「食品、添加物の規格基準」を遵守すること。

 
まとめ
「大量調理施設衛生管理マニュアル」は、同一メニューを1回300食以上または1日750食以上を提供する大量調理施設に適用される規定ですが、それ以外の中規模、小規模の調理施設でも、また、加熱せずに喫食することを前提にしているカット野菜やカット果物等を加工する施設においても、また他にも、生野菜を原料とする浅漬け等、漬物類を製造・加工している施設でも、同マニュアルの趣旨を踏まえた上で衛生状態を管理するように指導されています。
 従いまして、食品の製造及び提供されます企業様におかれましては、今後も最新のマニュアルに注意され、本マニュアルにできる限り準拠した上で、施設内で取り扱われる原材料の保管や施設内の衛生管理、並びに調理従事者等の健康管理の徹底を図られ、引き続き、食中毒の発生防止対策の強化を図られます様、切にお願い申し上げます。

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