2016年5月9日月曜日

<食品衛生法>大腸菌(E.coli)と、<細菌学>糞便系大腸菌群


SANKEI NEWS Report 5月号 大腸菌(E.coli)と糞便系大腸菌について



細菌(微生物)学と食品衛生法上で異なる大腸菌の定義
 
食品衛生法では「各食品別に細菌学的成分規格」が定められています。また、成分規格以外にも、製造基準、調理基準、保存基準及び加工基準にも微生物の規格が定められています。さらに、「衛生規範」では、食品衛生の確保及び向上を図るために、食品衛生法の成分規格になじまず、しかも食中毒が多発している食品を取り上げ、その微生物に関する指導基準が定められています。
これらの規格に基づきスーパーマーケットやコンビニエンスストア等でも製品別に自主規格を定められています。これら店舗の衛生管理と安全性を同時に評価する指標菌として、「大腸菌群Coriforms」、「糞便系大腸菌 Fecal coliforms(E.coli)」および「大腸菌 Escherichia coli」があます。これらは食品が衛生的に取り扱われ、さらに、病原微生物汚染の可能性があるか否かを示しており、その測定方法は明確に区分されています。
しかし、細菌分類学上の「大腸菌」と、食品衛生法上の「大腸菌(E.coli)」は、異なる用語であり、そもそも食品衛生法上では「大腸菌」の規格基準は存在していません。
そして食品衛生法上で記載されている「E.coli」は、EC発酵管を44.5℃で24時間培養し、ガス産生した細菌群であり、(その後 IMViC試験が定められています。)これは糞便系大腸菌群E.coli)のことを指しているため、「E.coli(または大腸菌(E.coli))=糞便系大腸菌群」というのが正解です。

○大腸菌は2種類ある
 A)細菌分類学上の学名
 B)食品衛生法上の行政用語
  ※但し、B)の大腸菌( E.coli)は糞便系大腸菌群(E.coli)のことである。
○食品衛生法上には大腸菌の規格は無い

弁当及びそうざいの衛生規範で言う「大腸菌」とは
 
一方で昭和 54年に公開されている「弁当及びそうざいの衛生規範」では、「大腸菌が陰性であること」という記述が見られ、食品衛生法上にも大腸菌が陰性であるという規格があると見て取れる表現(厳密には糞便系大腸菌(E.coli))が存在しています。
しかし、正しくは「冷凍食品の規格基準で定められた E.coliの試験法により、大腸菌は陰性であること。」※1までが記載されており、冷凍食品の E.coliの試験法とは、試料液を 10倍希釈(100倍希釈試料液)し、EC発酵管法で 44.5±2℃で 24時間培養し、ガスが産生されているのかどうかを確認すること ※2(その後 IMViC試験が定められています。)と記載されていますので、ここでも細菌分類学上の糞便系大腸菌群を測定していることがわかります。

また、糞便系大腸菌群(E.coli)は、ヒトまたは動物の糞便由来の大腸菌群であり、自然界に広く分布し、死滅しやすい事から、

 1)  糞便由来の汚染がみられるということ。
 2)比較的新しい糞便汚染がみられるということ。

以上の2点を示す汚染指標菌であるとされています。

冷凍食品の規格基準で定められたE.coliの試験法により、大腸菌は陰性であること試験液を10倍希釈(100倍希釈試料液)し、1mlずつ3本のE.C.はっ酵管に接触し、恒温水槽を用いて44.5℃±0.2で24時間±2で培養する。その際、ガス発生を認めた試料は、推定試験陽性とし、ガス発生を認めないものは推定試験陰性とする。











「糞便系大腸菌群=大腸菌(E.coli)」の測定方法

糞便系大腸菌群=大腸菌(E.coli)の測定では、EC発酵管を用いて44.5℃±2℃で24時間後のガスの産生を確認することと定められていますが、一部ではペトリフィルム(ドライ培地)や、ESコリマーク寒天培地などの合成酵素基質培地を用いて測定した結果を、食品衛生法上の大腸菌(E.coli)を測定していると勘違いされているケースがみうけられます。
これらの培地は、大腸菌の特徴を示すβ-グルクロニダーゼ活性を指標とし、これらが存在していた場合には気泡を含む青色コロニーが現れて、違う場合には気泡を含む赤色コロニーが現れてきます。よって、これは細菌分類学上の大腸菌を測定しており、しかもβ-グルクロニダーゼ活性がある大腸菌しか測定しておらず、肝心のO-157等の一部の病原性大腸菌は測定されていないということになります。(図1)

このように合成酵素基質培地での判定は、煩雑なIMViC試験を実施せずに大腸菌の存在を推定できる簡易測定方法であり、糞便系大腸菌群=食品衛生法上の大腸菌(E.coli)と細菌分類学上の大腸菌(IMViC試験)は異なっておりますが、末端の測定現場では誤解されているケースが多く、また、食品衛生法上の大腸菌(E.coli)の試験を簡便に行おうとして、ECプレートなどの合成酵素基質培地を用いられているケースも多々みうけられますが、食品において、貝類は自身の細胞内にβ-グルクロニダーゼ活性を持ち、食肉や魚肉では少しのβ-グルクロニダーゼを有し、それによって試験が妨害されることがありますので、注意が必要です。
従って、合成酵素基質培地は細菌分類学上の大腸菌の測定方法としては有効ですが、食品由来の汚染指標菌の測定方法としては適切ではありません。

ペトリフィルム(ドライ培地)や、ESコリマーク寒天培地などの合成酵素基質培地を用いて測定した結果では、一部の病原性大腸菌を測定できません。
酵素基質培地はβグルクロニダーゼを活性とする大腸菌のみであり、食品衛生法上のE.coliとは異なります。





















食品衛生管理における糞便汚染指標菌

糞便系大腸菌群という言葉を使用する例としては、施設環境があり、例えば、同じ測定方法の同じ菌種であったとしても、トイレでは糞便系大腸菌群と呼びますが、食品では大腸菌(E.coli)と呼びます。
このように食品の衛生管理方法しましては、糞便系大腸菌群=大腸菌(E.coli)を測定することで、直接的な糞便汚染がみられるという判断を下すことができます。
しかし、大腸菌には細菌分類学上の呼び方と、食品衛生法上での呼び方の2つが存在し、測定しているものの違いを理解しておかなければ、せっかくの品質を管理されているのにも関わらず、期待している程の効果は得られません。
特に酵素基質培地で測定した菌種を食品衛生法上での大腸菌(E.coli)と勘違いしてしまいますと、糞便系大腸菌群を測定していないことと、O-157等の一部の病原性大腸菌は測定されておらず、品質管理上で本来測定し、管理しておきたい菌種とは異なってしまいます。
このこには、十分な注意を払い、対応して頂く必要があります!!

SANKEI NEWS Report 5月号 PDF版↓
https://drive.google.com/file/d/0BwbDyV31W2pXQkdIZWpRd0I4OTg/view?usp=sharing




日本酒の品質向上と袋香対策



SANKEI NEWS Report 4月号 袋香対策にともなう日本酒の品質向上について

日本酒の評価を低下させる臭気の問題


日本酒の官能評価には香味特性を表すいくつかの用語が存在しており、品質の劣化を表す項目の中には、成分中の物質が何らかの作用で変化する事によって発生する異臭があり、その代表的な表現の1つに「袋香」という言葉があります。なお、この「袋香」という言葉は、一般的には袋や綿の臭い等の事を指しますが、実際には、醪を搾る酒袋を使用した後、洗浄し、保管している間に発生してくる真菌(カビ)類によって生成される異臭、いわゆる、圧搾後に酒袋を洗浄し、乾燥し、保管し、これをそのまま次の仕込みに利用すると、古い衣類の臭気に似た臭いが圧搾した日本酒に付着してしまう事がありますが、この臭気(異臭)を表す言葉としてつかわれています。
しかも、この臭いは袋に付着していた微量の日本酒成分が保管中に酸化し、微生物、特に真菌類の増殖によって発生する複合臭だといわれており、実際には酸化臭・劣化臭等が複雑に絡んだ移り香の総称名です。
しかし厄介な事に、この袋香は製品として出荷された後、数日~数週間経過した後でないと確認されません。(出来立てではわからない)その為に大きな問題に発展してしまう事もあり、酒造メーカーでは大変困惑されている様です。従いまして、日本酒の品質向上の為には、この袋香が発生するメカニズムを解明し、制御する方法を確立しておく事はとても重要な事のようです。

袋香について

袋香は、酒袋に残留する微量の有機物の酸化と微生物が保管中に増殖する事によって発生すると言われており、使用後丁寧に、アルカリ洗浄剤で処理し、乾燥し、保管していても真菌類が残り、これらが増殖し、異臭が発生する事があるといわれています。 また、このしつこい臭気は何度洗濯しても取れない衣類で経験された事があると思います。
花王㈱安全性評価研究所(2011.5.26)によりますと、異臭を発する衣類に付着していた微生物を、滅菌済みのタオルに付着させたところ、異臭の原因物質が多量に検出される事がわかり、この事から考えてみましても、布製品の臭気と微生物は深く関わっているのだといえます。また、近年の日本酒の製造技術において微生物の利用はかなり進んでおり、それと同時に洗浄、殺菌、消毒等の微生物の制御方法も定着しつつあるといえます。

袋香対策と殺菌処理

酒袋で発生する袋香の原因を解消する手段として、脱臭処理や、殺菌処理などの対策が考えられ、そのために次亜塩素酸ナトリウムで処理していますと、逆に塩素臭の付着や塩素化合物の付着が懸念され、しかも、袋の繊維や圧搾袋の素材を傷めてしまい、結果として異物の混入にも繋がってしまいます。
そこで、この次亜塩素酸ナトリウムは酒造りの環境でその使用は避けられている場合が多く、その理由は次亜塩素酸ナトリウムと木材中のリグニンと反応して生成される2,4,6-トリクロロフェノール(TCP)や2,4,6-トリクロロアニソールが日本酒の品質を下げてしまうようです。




塩素と有機物との化合物生成について


日本酒鑑評会において真菌類が関与している異臭が問題になるケースは多々ありますが、この真菌類の増殖によって発生するカビ臭の原因は、前駆体の 2,4,6-トリクロロフェノール(TCP)が真菌類(カビ)によってメチル化し、2,4,6-トリクロロアニソール(TCA)に変化するからだといわれており、T CPはそもそも木材に含まれている場合と、木材中のリグニンと次亜塩素酸ナトリウムが反応し、有機塩素化合物が生成される場合の 2通りあるようです。
 
独立行政法人酒類総合研究所のレポートでは、製麹関係の木材を使用した用具、麹室板壁の消毒には次亜塩素酸ナトリウムの使用は厳禁であると記されており、すべての塩素酸化物が TCPを生成するのか?それとも次亜塩素酸ナトリウムだけにみられる現象なのかに関するデータは不足しています。そこで、殺菌消毒剤メーカーの立場から木材と塩素酸化物との接触試験を実施してみることにしました。
 
まずはリグニンを豊富に含むスギ材と塩素酸化物による接触試験を行い、TCPの生成量の違いについて確認してみました。なお、先の独立行政法人酒類総合研究所からのレポートでは、次亜塩素酸ナトリウム 1200ppmに 20分間接触させると TCPは1300ppb(スギ材 1g当たりの含有量)以上検出(表1)されており、同様の方法で「次亜塩素酸ナトリウム」と「亜塩素酸水」を用いて TCPの生成量の違いについて確認してみました。(表2) その結果、亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウムと比較しますと、1/25の生成量しかなく、塩素の種類によって有機塩素化合物(TCP)の生成量は大幅な違いがあるというデータが得られ、元々自然のスギ材には、微量の TCPが含まれていますが、塩素の種類によってはほとんど TCPを生成しない可能性も期待されており、特に亜塩素酸はトリハロメタンやクロラミンを発生させづらいことが知られています。


ブランク:17.3ng、オスバン:28.1ng、次亜塩素酸Na:1308.5ng次亜塩素酸Na:75ng、亜塩素酸水:3ng













「亜塩素酸水」を用いた袋香対策

「亜塩素酸水」は有機塩素化合物の生成量が少なく、日本酒製造環境で安心して使用できる塩素酸化物の一つであり、この「亜塩素酸水」を用いて袋香対策を講じる際には、200~400ppmの亜塩素酸水液を作成(尚、この液の有効残留塩素濃度:酸化力は、必ず確認すること。)し、これを圧搾機に設置した酒袋の出口側からポンプで注入し、醪投入入り口から溢れるまで注入します。その後2~3日間放置し、流水でよくすすいだ後、圧搾を開始して下さい。そうしますと、袋香が発生する事なく日本酒を製造する事ができるようになります。特に初槽の時期の袋香対策には目をみはる効果を発揮いたします。

塩素系殺菌消毒剤の多様化


ノロウイルス、O-157などの食中毒の蔓延に伴い食品に使用可能な殺菌消毒剤は多様な進化を遂げており、特に、今回紹介させて頂いております「亜塩素酸水」は新規食品添加物として認可を受けた新しい殺菌剤であり、高い殺菌効果や、有機物接触時に有機塩素化合物を生成しづらいという特徴を持ち、これが塩素殺菌後の臭気を発生させずに殺菌する事に繋がり、今回の木材(リグニン)との反応以外にも、食品を殺菌した際の匂い移り(=塩素酸化物による殺菌時の反応生成物)も防止できると類推されています。
そしてこれらの殺菌消毒技術は様々な環境で活用されており、正しい知識と理解を元に徐々に解明され、広がりをみせていくのではないかと期待され、近年ではカルキ臭は塩素自体の臭いではなく、次亜塩素酸 Naとアンモニアが反応したクロラミン由来の臭気であるということも知られ始め、殺菌時に化合物を作りづらい低コンパウンド型の殺菌消毒剤は、快適な環境を生み出す物質としても大いに期待されています。


「亜塩素酸水」を主たる有効成分とした殺菌料であり、食品添加物のみで構成されています。有機物存在下でも高い殺菌効果を示す一方、金属や布を傷めにくい性質を持っています

SANKEI NEWS Report 4月号 PDF版↓