2016年8月10日水曜日

木の成分と次亜塩素酸系の薬剤との反応について(TCP並びにTCAによる異臭のクレーム)

SANKEI NEWS Report 8月号 木の成分と次亜塩素酸系の薬剤との反応について(TCP並びにTCAによる異臭のクレーム)

調理に欠かせない木の性質の利用

 料理を作るのに「木」が多用されていることはご存知でしょうか?
例えば、カマボコの板のように直接食品と接触しているものや、せいろ、カステラの木枠等、木質の器具は、調理工程上、木の性質を利用しなければならないものが多数存在しています。
なぜなら、この「木」には適度な吸水性と通気性があり、しかも低熱伝導効率によって、じっくりと温度をかけ、ふんわりとした食感を作ることができるからであり、特に蒸し物にはこの「木」の利用は欠かせません。

 しかし、この「木」を次亜塩素酸系統の殺菌剤や消毒薬等で処理しますと、木の成分と次亜塩素酸が反応し、2,4,6-トリクロロフェノール(以下TCP)という有機塩素化合物が生成され、大きなクレームを引き起こす要因が生まれてきてしまいます。


次亜塩素酸系の薬剤と木材との化学反応

次亜塩素酸系の薬剤は最もポピュラーな殺菌剤であり、消毒剤です。
そしてその多くは、二次汚染対策としてノロウイルスなどの塩素系でなければ明確な消毒効果が得られない微生物に対して広範囲に利用されています。
しかし、この「木」には細胞壁を構成するセルロースやリグニンなど多くの成分が含まれており、このリグニンと次亜塩素酸が接触してしまいますと、有機塩素化合物である TCPが生成されます。このときの反応生成量は、スギ材に次亜塩素酸 Na 1200ppm液で 20分間接触させると、この TCPはおよそ 100倍にまで増加するといわれています。(図1)

また、この TCPは特有のフェノール臭を放ち、更に真菌類によってメチル化すると、2,4,6-トリクロロアニソール(以下TCA)というとても強力な臭気を放つ真菌類臭物質が生まれ、大きなクレームに繋がります。(図2)


●未処理17.3ng●次亜塩素酸ナトリウム1308.5ng●オスバン50倍希釈28.1ngTCP(2,4,6-トリクロロフェノール)昇華性が低く、空気中を移動しない。真菌類の存在によって変換され、TCAの生成に繋がる。●TCA(2,4,6トリクロロアニソール)閾値が極めて小さく、昇華性が高いため周囲を浮遊し、包装容器を通過する。



リグニンと次亜塩素酸NaによるTCP、TCAの生成

製缶業界では 1980年に、この TCAが混入していた木製のパレットが原因であるといわれている缶コーヒーの異臭クレームが発生しました。そしてこの事件をきっかけにして、「木」と次亜塩素酸によって生成される有機塩素化合物によって異臭が発生するということがわかりはじめ、近年でも TCAが混入した飲料が「カビ臭い」、「雑巾をしぼった臭いがする」等というクレームを起こし、これを処理するために商品の回収を余儀なくされるケースが多々あります。
またこれらは、ペットボトルや缶のように密閉された包装容器であっても内部にまで浸透し、真菌類臭、いわゆるカビ臭によるクレームに発展し、さらにこの TCAは 100トン中に0.01g(1千億分の1)の混入であっても異臭を感じる様です。このことから、木の利用が多い食品製造環境では次亜塩素酸系の殺菌剤の利用は避けられている様です。


①木材防腐剤PCR→光と真菌類によって変換→TCP→メチル化→TCA→製品移行 ②木材中のリグニン→塩素化→TCP→メチル化→TCA→製品移行



伝統食品と「木」の利用

前述の通り、料理を作る調理器具にはこの「木」が多用されており、これらの殺菌や消毒に次亜塩素酸を用いますと臭気クレームに繋がります。この為、調理器具や製造環境で考えても、和菓子、清酒、蒲鉾などのように「木」を利用する食品業界では次亜塩素酸を用いることは異臭の原因物質を作り出すことに繋がり、特に日本料理にはこの「木」を利用する調理方法が多い事から特に注意が必要です。(例えばまな板、せいろ、木枠、竹かご)

さらに日本家屋も「木」で出来ています。このことから、家庭の消臭殺菌で次亜塩素酸による塩素消毒を頻繁に行うことで TCPや TCAが生成され、いつのまにか真菌類臭、いわゆるカビ臭が付着してしまうことに繋がるケースも想定されます。


リグニンを多く含む根菜類

一方で、このリグニン=木質素は高分子のフェノール化合物であり、植物の細胞壁を構成していることから、特に根菜中に多く含まれており、これらの殺菌に次亜塩素酸系の薬剤を使用してしまいますと、有機塩素化合物生成による臭気変化を招きます。
なお、この次亜塩素酸の反応スピードの速さは、速やかな殺菌を可能にする事と同時に、多用な化合物を生成してしまうという欠点も理解しておく必要があります。


「亜塩素酸水」と木材の反応試験

次亜塩素酸 Naと亜塩素酸水の木材(リグニン)との接触時に生成されるTCPについて、比較試験を実施しています。なお、この試験では、スギ材(10cm×25cm×1cm 約110g)を10倍量の殺菌液に 20分間浸漬し、液きりした後、このスギ材を分析機関で抽出し、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて検査してみましたところ、次亜塩素酸 Na 1200ppm液に浸漬したスギ材は変色し、薬品臭が着香していましたが、亜塩素酸水の方は臭気付着がみられませんでした。(図4)





























低コンパウンド型殺菌剤:亜塩素酸水

ノロウイルス、O-157などの食中毒の蔓延に伴い、食品に使用可能な殺菌剤は多岐にわたり進化を遂げており、特に、今回紹介させて頂いております「亜塩素酸水」は、新規食品添加物とし
て認可を受けた新しい殺菌料であり、また、高い殺菌効果や、有機物接触時に有機塩素化合物を生成しづらいという特徴を持ち、殺菌処理後の臭気を発生させず、殺菌と同時に消臭することもできます。
また、今回の木材(リグニン)との反応以外にも、食品を殺菌処理した際の匂い移り(=塩素酸化物による殺菌時の反応生成物)も防止できると類推されています。そしてこれらの殺菌処理技術は様々なところで活用されており、正しい知識と理解を元に徐々に解明され、広がりをみせていくのではないかと期待されており、近年ではカルキ臭は塩素自体の臭いではなく、次亜塩素酸 Naとアンモニアが反応したクロラミン由来の臭気であるということも知られ始め、殺菌時に化合物を作りづらい低コンパウンド型の殺菌消毒剤は、快適な環境を生み出す物質としても大いに期待されています。是非一度試してみて下さい。




SANKEI NEWS Report 8月号 PDF版↓
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