2016年8月20日土曜日

大量調理施設衛生管理マニュアル(平成28年度)の改正について

SANKEI NEWS Report 9月号 大量調理施設衛生管理マニュアル(平成28年度)の改正について

大量調理施設衛生管理マニュアルの改正

平成 8年に岡山県の学校給食で発生した 0-157による集団食中毒事件 (死亡、入院患者 26人、患者数 468人)を皮切りに、各地の学校給食で同様の食中毒事件が発生し、これをきっかけに、厚生労働省が、「大量調理施設衛生管理マニュアル(平成 9年度)」をまとめられました。

そしてそれ以降、本マニュアルは、保健所、学校給食従事者や飲食店における衛生管理の実質的な準法令文書として、また、HACCPの概念を取り入れた各種の重要管理事項として認知されています。

ただし、ノロウイルスによる食中毒の流行によって、平成 25年に改正されたばかりの本マニュアルではありますが、依然としてノロウイルスによる食中毒事件数が減少しないことを理由に、今回有機物存在下、いわゆる汚れがある、又は残ってしまう環境下や条件下における「ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書 (平成 27年度 )」が国立医薬品食品衛生研究所によって確認され、これをエビデンスとして、平成 28年7月1日に「大量調理施設衛生管理マニュアル( 平成28 年度)」の再改正が行われ、厚生労働省のホームページに掲載されました。

食品事業者の衛生管理に関する情報衛生管理に関するガイドライン 等
厚生労働省 HP:http://www.mhlw.go.jp


「大量調理施設衛生管理マニュアル(平成28年度)」の改正内容

「大量調理施設衛生管理マニュアル( 平成28 年度)」は、平成28 年7 月1 日付で改正がされ、主としてノロウイルスによる食中毒事故の増加対策であり、先の国立医薬品食品衛生研究所が作成された調査報告にもとづき、本マニュアルでは、有機物存在下におけるノロウイルス対策として有用な消毒剤が選定され、マニュアルの中に追加記載されています。(参考2)(「大量調理施設衛生管理マニュアル」中に参考資料として添付されています。)

なお、このマニュアルには、まな板やざる、調理機械などの二次汚染対策についても言及しており、これまでは「80℃、5 分間の加熱または同等の殺菌を行うこと」とだけの記載でありましたが、より具体的にノロウイルスに関して不活化効果が期待できる次亜塩素酸 Naや亜塩素酸水などの塩素系消毒剤の使用方法が追加されています。
 
また、大量調理施設のみならず、中小規模調理施設もこれを準じることになりました。


HACCPシステムやノロウイルスの不活化条件に関する中長報告書等のエビデンスを参照しています。

重要管理項目や衛生管理体制、原材料の保管等、消毒方法が改正されました。


ノロウイルスの不活化条件について

国立医薬品食品衛生研究所において作成された「ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書 (平成 27年度 )」を参考資料として、大量調理施設衛生管理マニュアル(平成 28年度)は改正され、厚生労働省の通知文書にも、塩素系消毒剤やエタノール系消毒剤の中に、ノロウイルスに対する不活化効果が期待できる消毒剤が選定され、器具、容器等にこれら消毒剤を用いる際の留意点や、特に有機物存在下で不活化効果を示した「亜塩素酸水」、「次亜塩素酸Na」等を十分な洗浄が困難な器具類に用いる際の留意点として追加し、改正したと記載されています。

なお、この中の”有機物存在下で効果を発揮する消毒剤”というキーワードは、今回の改正でもっとも重要な意味を示しており、特にこれまで多用されてきた次亜塩素酸 Naは、5000ppm液ではペプトンを添加した場合に効果〈表1〉各消毒剤のノロウイルス不活化効果(B評価)が認められますが 1000ppm液では肉エキス、ペプトン、BSA終濃度 5.0%において C評価であり、効果が認められないと記されています。(表1)

現状の「ノロウイルス Q&A」では、おう吐物処理時に次亜塩素酸 Na200ppm液を使用して消毒処理するという方法が推奨されていますが、200ppmではおう吐物の処理と消毒には効果が無く、このことにより、実際の現場では 1000ppmや 5000ppmでの使用が推奨がされ始めており、その根拠がこの報告の公開で納得できました。

なお、亜塩素酸水については、一部にB判定もありますが、ほぼ A判定と見なされるという記載があり、特に肉エキス、ポリペプトン、BSA終濃度 5.0%において十分な不活化効果が認められており、次亜塩素酸 Na5000ppmと同レベルの有用な消毒剤として選定されています。


負荷剤を添加しても、亜塩素酸水はウイルス不活化効果を得ることができます。

国立医薬品食品衛生研究所が行った試験で、亜塩素酸水は、負荷剤を添加してもウイルス不活化効果が減少しにくいことがわかりました。市販されている殺菌剤では、負荷剤添加時に十分なウイルス不活化効果が得られないことが多いとわかりました。




まとめ

ノロウイルスを起因とする食中毒や感染症は増加の一途を辿っており、また、ウイルス類は変異を繰り返し、新型ウイルスとして猛威をふるうことも考えられます。
そのため、厚生労働省では常にマニュアルの改正を行われていますので、最新の情報のもと、有用な消毒剤の選定とその正しい使い方に関する情報を入手し、貴施設の衛生環境の維持、改善と食中毒並びに感染症対策に対応されることを望みます。



「亜塩素酸水」を主たる有効成分と した殺菌料であり、食品添加物のみ で構成されています。有機物存在下 でも高い殺菌効果を示す一方、金属 や布などの素材を傷めにくいという 性質を有しております。

2016年8月10日水曜日

木の成分と次亜塩素酸系の薬剤との反応について(TCP並びにTCAによる異臭のクレーム)

SANKEI NEWS Report 8月号 木の成分と次亜塩素酸系の薬剤との反応について(TCP並びにTCAによる異臭のクレーム)

調理に欠かせない木の性質の利用

 料理を作るのに「木」が多用されていることはご存知でしょうか?
例えば、カマボコの板のように直接食品と接触しているものや、せいろ、カステラの木枠等、木質の器具は、調理工程上、木の性質を利用しなければならないものが多数存在しています。
なぜなら、この「木」には適度な吸水性と通気性があり、しかも低熱伝導効率によって、じっくりと温度をかけ、ふんわりとした食感を作ることができるからであり、特に蒸し物にはこの「木」の利用は欠かせません。

 しかし、この「木」を次亜塩素酸系統の殺菌剤や消毒薬等で処理しますと、木の成分と次亜塩素酸が反応し、2,4,6-トリクロロフェノール(以下TCP)という有機塩素化合物が生成され、大きなクレームを引き起こす要因が生まれてきてしまいます。


次亜塩素酸系の薬剤と木材との化学反応

次亜塩素酸系の薬剤は最もポピュラーな殺菌剤であり、消毒剤です。
そしてその多くは、二次汚染対策としてノロウイルスなどの塩素系でなければ明確な消毒効果が得られない微生物に対して広範囲に利用されています。
しかし、この「木」には細胞壁を構成するセルロースやリグニンなど多くの成分が含まれており、このリグニンと次亜塩素酸が接触してしまいますと、有機塩素化合物である TCPが生成されます。このときの反応生成量は、スギ材に次亜塩素酸 Na 1200ppm液で 20分間接触させると、この TCPはおよそ 100倍にまで増加するといわれています。(図1)

また、この TCPは特有のフェノール臭を放ち、更に真菌類によってメチル化すると、2,4,6-トリクロロアニソール(以下TCA)というとても強力な臭気を放つ真菌類臭物質が生まれ、大きなクレームに繋がります。(図2)


●未処理17.3ng●次亜塩素酸ナトリウム1308.5ng●オスバン50倍希釈28.1ngTCP(2,4,6-トリクロロフェノール)昇華性が低く、空気中を移動しない。真菌類の存在によって変換され、TCAの生成に繋がる。●TCA(2,4,6トリクロロアニソール)閾値が極めて小さく、昇華性が高いため周囲を浮遊し、包装容器を通過する。



リグニンと次亜塩素酸NaによるTCP、TCAの生成

製缶業界では 1980年に、この TCAが混入していた木製のパレットが原因であるといわれている缶コーヒーの異臭クレームが発生しました。そしてこの事件をきっかけにして、「木」と次亜塩素酸によって生成される有機塩素化合物によって異臭が発生するということがわかりはじめ、近年でも TCAが混入した飲料が「カビ臭い」、「雑巾をしぼった臭いがする」等というクレームを起こし、これを処理するために商品の回収を余儀なくされるケースが多々あります。
またこれらは、ペットボトルや缶のように密閉された包装容器であっても内部にまで浸透し、真菌類臭、いわゆるカビ臭によるクレームに発展し、さらにこの TCAは 100トン中に0.01g(1千億分の1)の混入であっても異臭を感じる様です。このことから、木の利用が多い食品製造環境では次亜塩素酸系の殺菌剤の利用は避けられている様です。


①木材防腐剤PCR→光と真菌類によって変換→TCP→メチル化→TCA→製品移行 ②木材中のリグニン→塩素化→TCP→メチル化→TCA→製品移行



伝統食品と「木」の利用

前述の通り、料理を作る調理器具にはこの「木」が多用されており、これらの殺菌や消毒に次亜塩素酸を用いますと臭気クレームに繋がります。この為、調理器具や製造環境で考えても、和菓子、清酒、蒲鉾などのように「木」を利用する食品業界では次亜塩素酸を用いることは異臭の原因物質を作り出すことに繋がり、特に日本料理にはこの「木」を利用する調理方法が多い事から特に注意が必要です。(例えばまな板、せいろ、木枠、竹かご)

さらに日本家屋も「木」で出来ています。このことから、家庭の消臭殺菌で次亜塩素酸による塩素消毒を頻繁に行うことで TCPや TCAが生成され、いつのまにか真菌類臭、いわゆるカビ臭が付着してしまうことに繋がるケースも想定されます。


リグニンを多く含む根菜類

一方で、このリグニン=木質素は高分子のフェノール化合物であり、植物の細胞壁を構成していることから、特に根菜中に多く含まれており、これらの殺菌に次亜塩素酸系の薬剤を使用してしまいますと、有機塩素化合物生成による臭気変化を招きます。
なお、この次亜塩素酸の反応スピードの速さは、速やかな殺菌を可能にする事と同時に、多用な化合物を生成してしまうという欠点も理解しておく必要があります。


「亜塩素酸水」と木材の反応試験

次亜塩素酸 Naと亜塩素酸水の木材(リグニン)との接触時に生成されるTCPについて、比較試験を実施しています。なお、この試験では、スギ材(10cm×25cm×1cm 約110g)を10倍量の殺菌液に 20分間浸漬し、液きりした後、このスギ材を分析機関で抽出し、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて検査してみましたところ、次亜塩素酸 Na 1200ppm液に浸漬したスギ材は変色し、薬品臭が着香していましたが、亜塩素酸水の方は臭気付着がみられませんでした。(図4)





























低コンパウンド型殺菌剤:亜塩素酸水

ノロウイルス、O-157などの食中毒の蔓延に伴い、食品に使用可能な殺菌剤は多岐にわたり進化を遂げており、特に、今回紹介させて頂いております「亜塩素酸水」は、新規食品添加物とし
て認可を受けた新しい殺菌料であり、また、高い殺菌効果や、有機物接触時に有機塩素化合物を生成しづらいという特徴を持ち、殺菌処理後の臭気を発生させず、殺菌と同時に消臭することもできます。
また、今回の木材(リグニン)との反応以外にも、食品を殺菌処理した際の匂い移り(=塩素酸化物による殺菌時の反応生成物)も防止できると類推されています。そしてこれらの殺菌処理技術は様々なところで活用されており、正しい知識と理解を元に徐々に解明され、広がりをみせていくのではないかと期待されており、近年ではカルキ臭は塩素自体の臭いではなく、次亜塩素酸 Naとアンモニアが反応したクロラミン由来の臭気であるということも知られ始め、殺菌時に化合物を作りづらい低コンパウンド型の殺菌消毒剤は、快適な環境を生み出す物質としても大いに期待されています。是非一度試してみて下さい。




SANKEI NEWS Report 8月号 PDF版↓
https://drive.google.com/file/d/0BwbDyV31W2pXbmctQlhEQklUMHc/view?usp=sharing