2016年12月24日土曜日

塩素酸化物と食品中のアミノ酸: トリプトファン・チロシン との発色反応について(アミノ酸残基と塩素酸化物の発色反応)

SANKEI NEWS Report 12月号 塩素酸化物と食品中のアミノ酸:トリプトファン・チロシンとの発色反応について(アミノ酸残基と塩素酸化物の発色反応)


牛乳に塩素酸化物を加えるとピンク色になる?

塩素酸化物は食品類や食品用原材料の殺菌剤として幅広く利用されていますが、この塩素酸化物で魚介類などの白色系の食材を殺菌処理した時、黄色やピンク色に発色してしまったという経験はありませんか?また、白いシャツや靴下等、一般的に白物と呼ばれている衣類を洗濯した時、変色してしまったという経験はありませんか?他にも、牛乳の中に、殺菌剤や漂白剤である次亜塩素酸ナトリウム等の塩素酸化物等が混入してしまいますと、牛乳の中のタンパク質と塩素酸化物が反応し、ピンク色に変化することがありますが、このような現象は毎回発生するという訳ではなく、ごく稀に発生するということの様ではありますが、塩素酸化物とタンパク質とが反応して発生する発色現象には、きちんとしたメカニズムが存在しています。
それは、塩素酸化物は反応性に富み、殺菌効果を発揮する以外にも使用状況に応じて様々な化合物に変化します。もちろん、塩素酸化物によって殺菌された対象物は元の組成を保っているという訳ではなく、様々な色素の前駆体物質へと変化します。このように塩素酸化物で殺菌処理した時に起こる発色現象や変色現象は、食品の分野ではあまり注目されていませんが、食品以外に目を向けますと、過去から様々な研究が行われています。


タンパク質中のアミノ酸残基との呈色反応

タンパク質中のチロシンやトリプトファンは必須アミノ酸であり、これらが酸化したり、酸と反応することで発色するという現象はよく知られていますが、これはアミノ酸残基が酸化する事で呈色反応の原因となる呈色物質が生じるからなのです。
また、長期間空気に触れることによっても酸化して呈色物質が産生してくることもあるようです。しかし、塩素酸化物のような酸化剤や漂白剤は接触するだけで同様の呈色物質が生じるために、この時の対象食品や、衣類は少なからず変色してしまいます。(古い衣類が黄ばんでくる等の現象も同じです。)その一方で、この呈色反応を利用して、染料業界では、天然繊維と塩素酸化物を反応させ、濃い紫色に着色させる研究(※)や、この発色現象を利用した塩素酸化物の残留や使用濃度を測定する検査キットや検査方法等は数多く存在し、食品や衣類を殺菌する際に問題となる呈色反応を、逆に、利用している分野や産業はたくさん存在しています。このように、敏感に反応する塩素酸化物は、タンパク質中のチロシンや、トリプトファン等のアミノ酸残基と接触することで呈色物質が生じ、呈色反応が起こるということと、この現象は、数多くの業種で広く利用されているということを覚えておいてください。


酸化性アミノ酸残基の発色反応の流れ

タンパク質中のチロシンやトリプトファン等のアミノ酸残基は塩素酸化物を加えることで反応し、酸化性アミノ残基に変化すると呈色物質が生じます。しかし実際は、2系統の色調変化が発生するということをご存知でしょうか?
チロシンは酸化しますと、最終的にはメラニンになり褐色の色調に変化してしまいますが、その中間段階ではピンク色に発色し、やがて濃い赤色に変化し、最終的には褐色の色調に変化してしまいます。このようにピンク色に発色している時にはドーパキノンという物質が生成されており、次に赤色に変化する時にはドーパクロムという物質が生成され、その結果として変色し、ピンク色から徐々に赤く発色してしまうといわれています。
その一方で、トリプトファンが酸化すると黄色く発色しますが、これはイサチン、インドキシルという物質が生成されている状態であり、次にピンク色に変わる際、インジゴレッドという物質が生成されるようです。

実際に牛乳に塩素酸化物を加えた際の色調の変化について
実際にこのような呈色反応が発生するのかどうかについて検証すべく、10倍希釈の牛乳10gに対して、同じく10gの塩素酸化物を加えた時の色調の変化について確認してみました。
まず、<図2>の①のように、塩素酸化物によって牛乳がピンク色に変化し、その後②のように一晩後にはピンク色から、黄色に変化します。
次に、<図3>の“呈色物質の生成過程と発色の機構”で言えば、塩素酸化物とチロシンが反応してピンク色に変化し、その後、塩素酸化物とトリプトファンが反応し、黄色が強く現れてきます。
このように、塩素酸化物とタンパク質は条件を変えると簡単に発色し、その色調は常に変化するということを、おわかりいただけましたでしょうか?



チロシン・トリプトファンが多い食品

牛乳(カゼイン)、大豆製品、マグロ、ちりめんじゃこ、ハモなどはチロシンやトリプトファンの含有量が多く、上述した呈色反応が発生しやすい食品であり、また、塩素酸化物を使用しなくても、保管中に変色しやすい食品群であるとも言えます。
これら食品類に、酸化作用や還元作用を持つ塩素酸化物である殺菌剤や漂白剤などを使用しますと、その対象物のタンパク質(アミノ酸)の中には呈色物質が生じやすく、その呈色物質が発色し、変色しやすい物や、食品類が沢山あると言うことを知って頂ければ、逆に、このタンパク質に対して事前に軽度な変性を加える事で、反応を完了させて、その後の変色を軽減もしくは防止するという使用方法は、今後十分に検討される余地があるといわれています。そして、実際に塩素酸化物によって食品を殺菌処理している間に、色調の変化を抑制する事ができたという症例は、数多く発表されています。また、このように、この発色反応は保管中にいずれ発生してくる現象ではありますが、事前処理によってこの反応を終了させておく事で、その後の変色を抑制したり、逆に、好ましい色調に変化させたりするという発想を実現できる応用研究は、大いに期待されています。


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2016年10月19日水曜日

キュウリのイボに潜む常在生菌(Deso培地に検出されるシュードモナス属)

SANKEI NEWS Report 10月号 キュウリのイボに潜む常在生菌(Deso培地に検出されるシュードモナス属)

キュウリを原因食品とする食中毒

 ウリ科キュウリ属のキュウリは生食に適している白イボ系と漬物加工に適している黒イボ系の 2つに大きく区別されますが、現在、我々が食べているほとんどのキュウリは白イボ系のキュウリであり、その特徴的な白いイボにはたくさんの細菌が潜んでいると言われています。

 そして、このキュウリを生食することによって引き起こされた食中毒の事例は非常に多く、2014年に発生した“冷やしキュウリ“を起因とする O-157による大規模食中毒事件は記憶に新しいことと存じます。また、このキュウリが原因で発生した食中毒はサルモネラや O-157などいずれも二次汚染菌であり、キュウリに細菌が付着しやすく、しかも除去しづらいという特徴をあらわしています。

 なお、この原因と言われているキュウリのイボは元々が棘であり、キュウリが熟していく過程で、また、生産地から消費地まで輸送されてくる間に徐々に棘が無くなり、この白いイボに変化していきます。そしてこのイボには非常に多くの細菌が溜まっていると言われていますが、その実態を確認した資料は非常に少なく、キュウリの殺菌方法を検討する際にはこのイボの実態を確認しておく必要があります。


●1997年、25人が腸炎ビブリオによる食中毒●2002年、112人がO157による食中毒●2014年、518人がO157による食中毒


キュウリのイボに常在する細菌(シュードモナス属)

 キュウリのイボには細菌数が多いと言われていますが、実際にこのことを確認したデータはあまりなく、今回このキュウリのイボだけを取り出して検査してみましたところ、その結果が(図3)であります。
 そしてこの結果から、キュウリの表皮とキュウリのイボとでは 1オーダー程度の菌数差が確認され、イボだけの場合、デソキシコレート培地に特徴的な白色透明のコロニーを形成する細菌が多く確認され、本来の大腸菌群である赤色コロニーはさほど多くないことが判りました。
 
 そしてこの白色透明のコロニーはシュードモナス属であり、自然環境の至るところに多く存在していますが、特に汚染しやすい水回りに多く存在しており、バイオフィルムを形成し、低温でも増
殖する細菌であるということが知られており、他の細菌が好まない環境で存在することが多いとも言われています。その上、このシュードモナス属はバイ オフィルムを形成することに加えて元々が薬剤耐性が強く、さらに、キュウリのイボに存在することで殺菌剤が行き届きづらく(イボ内の空気の存在によって水が浸透しにくくなるからだといわれています。)10℃保管で 48時間あたりから急速に増殖し、また、デソキシコレート培地に現れてくることもシュードモナス属の特徴といえます。

 しかし、シュードモナス属は汚染が激しい水周りに多く存在している事から糞便由来系ではありませんが、汚染水が付着した形跡を示しているため、それ自体は食中毒菌ではなくても、汚染指標としてデソキシコレート培地に白色透明コロニーが検出された場合には、食中毒菌が混入している可能性が高い環境下で生産されたものだという事がわかり、注意が必要だという指標にもなりますことから、危害細菌に指定されている食品企業もあるようです。


土壌や河川、海、動植物の組織に分布しているグラム陰性好気性桿菌。
表皮よりもイボ部分の方が菌数3オーダー程度高いことがわかりました。



亜塩素酸水を用いたキュウリの殺菌処理

 シュードモナス属はバイオフィルムを形成し、薬剤耐性も強いため、薬剤を浸透させるための策を講じ、ある一定以上の浸漬時間をかけて浸透させる必要があると考えられており、主に浸漬時間による効果の差と、薬剤濃度を調整した上で殺菌テスト(図4)を実施してみることにしました。

 なお、試験では、次亜塩素酸水と亜塩素酸水を組み合わせた試験区と、亜塩素酸水を pH調整した試験区の2パターン実施し、殺菌後に水洗し、シュードモナス属の増殖が確認され始める10℃保管で 72時間保管することで、殺菌効果の差を比較してみました。

 その結果、シュードモナス属の測定を目的としたデゾキシコレート培地には殺菌効果に差異がみられ、浸漬時間を30分間に設定した試験区では、10℃保管で 72時間後でも、低菌数の状態のまま維持しているという結果が得られています。
 なお、今回の試験では、薬剤の違いと浸漬時間による効果の差を確認するために、中性洗剤を用いて、キュウリの表面は洗浄していません。また、数回の試験中にもキュウリの菌数のバラつ
きが発生し、野菜表面のワックス成分によっても、殺菌効果のバラつきが生じます。よって、表皮を除去しないタイプの生野菜の処理方法を検討する際には、殺菌処方の選定と同様に、前処理洗浄で表面にあるワックスの成分を除去しておくことはとても大切であり、かつ重要なことだということもわかりました。


水洗→カット→殺菌→水洗→脱水→検査


亜塩素酸水併用区では、他の試験国比べ、菌数の立ち上がりを抑えることができました。

亜塩素酸水併用区でも、キュウリの断面に変色等の変化は見られませんでした。



強い殺菌処理はキュウリを傷めることも・・・

 キュウリは傷み始めると中からピンク色に変色することは広く知られていますが、主にキュウリの中の白色ポリフェノールが低温保管によって変色するなど、そもそも日持ちする野菜ではなく、キュウリは見た目以上に傷みやすい野菜なのだと言えます。

 そのため、強い殺菌処理を施しますとスライス断面がピンク色に変色することもあり、例えば次亜塩素酸水 50ppmに亜塩素酸水を 400ppmで併用した験区において、キュウリのスライス断面がピンク色になるという現象が見られ、次亜塩素酸水 75ppmと亜塩素酸水 200~ 400ppmを使用した試験区のように強い酸化剤を加えすぎますと、変色しやすい野菜なのだということを知っておいて頂く必要があります。(図5)


過剰な殺菌条件下(強酸化環境下)では、キュウリのスライス面がピンク色になる現象がみられる場合があります。


2016年8月20日土曜日

大量調理施設衛生管理マニュアル(平成28年度)の改正について

SANKEI NEWS Report 9月号 大量調理施設衛生管理マニュアル(平成28年度)の改正について

大量調理施設衛生管理マニュアルの改正

平成 8年に岡山県の学校給食で発生した 0-157による集団食中毒事件 (死亡、入院患者 26人、患者数 468人)を皮切りに、各地の学校給食で同様の食中毒事件が発生し、これをきっかけに、厚生労働省が、「大量調理施設衛生管理マニュアル(平成 9年度)」をまとめられました。

そしてそれ以降、本マニュアルは、保健所、学校給食従事者や飲食店における衛生管理の実質的な準法令文書として、また、HACCPの概念を取り入れた各種の重要管理事項として認知されています。

ただし、ノロウイルスによる食中毒の流行によって、平成 25年に改正されたばかりの本マニュアルではありますが、依然としてノロウイルスによる食中毒事件数が減少しないことを理由に、今回有機物存在下、いわゆる汚れがある、又は残ってしまう環境下や条件下における「ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書 (平成 27年度 )」が国立医薬品食品衛生研究所によって確認され、これをエビデンスとして、平成 28年7月1日に「大量調理施設衛生管理マニュアル( 平成28 年度)」の再改正が行われ、厚生労働省のホームページに掲載されました。

食品事業者の衛生管理に関する情報衛生管理に関するガイドライン 等
厚生労働省 HP:http://www.mhlw.go.jp


「大量調理施設衛生管理マニュアル(平成28年度)」の改正内容

「大量調理施設衛生管理マニュアル( 平成28 年度)」は、平成28 年7 月1 日付で改正がされ、主としてノロウイルスによる食中毒事故の増加対策であり、先の国立医薬品食品衛生研究所が作成された調査報告にもとづき、本マニュアルでは、有機物存在下におけるノロウイルス対策として有用な消毒剤が選定され、マニュアルの中に追加記載されています。(参考2)(「大量調理施設衛生管理マニュアル」中に参考資料として添付されています。)

なお、このマニュアルには、まな板やざる、調理機械などの二次汚染対策についても言及しており、これまでは「80℃、5 分間の加熱または同等の殺菌を行うこと」とだけの記載でありましたが、より具体的にノロウイルスに関して不活化効果が期待できる次亜塩素酸 Naや亜塩素酸水などの塩素系消毒剤の使用方法が追加されています。
 
また、大量調理施設のみならず、中小規模調理施設もこれを準じることになりました。


HACCPシステムやノロウイルスの不活化条件に関する中長報告書等のエビデンスを参照しています。

重要管理項目や衛生管理体制、原材料の保管等、消毒方法が改正されました。


ノロウイルスの不活化条件について

国立医薬品食品衛生研究所において作成された「ノロウイルスの不活化条件に関する調査報告書 (平成 27年度 )」を参考資料として、大量調理施設衛生管理マニュアル(平成 28年度)は改正され、厚生労働省の通知文書にも、塩素系消毒剤やエタノール系消毒剤の中に、ノロウイルスに対する不活化効果が期待できる消毒剤が選定され、器具、容器等にこれら消毒剤を用いる際の留意点や、特に有機物存在下で不活化効果を示した「亜塩素酸水」、「次亜塩素酸Na」等を十分な洗浄が困難な器具類に用いる際の留意点として追加し、改正したと記載されています。

なお、この中の”有機物存在下で効果を発揮する消毒剤”というキーワードは、今回の改正でもっとも重要な意味を示しており、特にこれまで多用されてきた次亜塩素酸 Naは、5000ppm液ではペプトンを添加した場合に効果〈表1〉各消毒剤のノロウイルス不活化効果(B評価)が認められますが 1000ppm液では肉エキス、ペプトン、BSA終濃度 5.0%において C評価であり、効果が認められないと記されています。(表1)

現状の「ノロウイルス Q&A」では、おう吐物処理時に次亜塩素酸 Na200ppm液を使用して消毒処理するという方法が推奨されていますが、200ppmではおう吐物の処理と消毒には効果が無く、このことにより、実際の現場では 1000ppmや 5000ppmでの使用が推奨がされ始めており、その根拠がこの報告の公開で納得できました。

なお、亜塩素酸水については、一部にB判定もありますが、ほぼ A判定と見なされるという記載があり、特に肉エキス、ポリペプトン、BSA終濃度 5.0%において十分な不活化効果が認められており、次亜塩素酸 Na5000ppmと同レベルの有用な消毒剤として選定されています。


負荷剤を添加しても、亜塩素酸水はウイルス不活化効果を得ることができます。

国立医薬品食品衛生研究所が行った試験で、亜塩素酸水は、負荷剤を添加してもウイルス不活化効果が減少しにくいことがわかりました。市販されている殺菌剤では、負荷剤添加時に十分なウイルス不活化効果が得られないことが多いとわかりました。




まとめ

ノロウイルスを起因とする食中毒や感染症は増加の一途を辿っており、また、ウイルス類は変異を繰り返し、新型ウイルスとして猛威をふるうことも考えられます。
そのため、厚生労働省では常にマニュアルの改正を行われていますので、最新の情報のもと、有用な消毒剤の選定とその正しい使い方に関する情報を入手し、貴施設の衛生環境の維持、改善と食中毒並びに感染症対策に対応されることを望みます。



「亜塩素酸水」を主たる有効成分と した殺菌料であり、食品添加物のみ で構成されています。有機物存在下 でも高い殺菌効果を示す一方、金属 や布などの素材を傷めにくいという 性質を有しております。

2016年8月10日水曜日

木の成分と次亜塩素酸系の薬剤との反応について(TCP並びにTCAによる異臭のクレーム)

SANKEI NEWS Report 8月号 木の成分と次亜塩素酸系の薬剤との反応について(TCP並びにTCAによる異臭のクレーム)

調理に欠かせない木の性質の利用

 料理を作るのに「木」が多用されていることはご存知でしょうか?
例えば、カマボコの板のように直接食品と接触しているものや、せいろ、カステラの木枠等、木質の器具は、調理工程上、木の性質を利用しなければならないものが多数存在しています。
なぜなら、この「木」には適度な吸水性と通気性があり、しかも低熱伝導効率によって、じっくりと温度をかけ、ふんわりとした食感を作ることができるからであり、特に蒸し物にはこの「木」の利用は欠かせません。

 しかし、この「木」を次亜塩素酸系統の殺菌剤や消毒薬等で処理しますと、木の成分と次亜塩素酸が反応し、2,4,6-トリクロロフェノール(以下TCP)という有機塩素化合物が生成され、大きなクレームを引き起こす要因が生まれてきてしまいます。


次亜塩素酸系の薬剤と木材との化学反応

次亜塩素酸系の薬剤は最もポピュラーな殺菌剤であり、消毒剤です。
そしてその多くは、二次汚染対策としてノロウイルスなどの塩素系でなければ明確な消毒効果が得られない微生物に対して広範囲に利用されています。
しかし、この「木」には細胞壁を構成するセルロースやリグニンなど多くの成分が含まれており、このリグニンと次亜塩素酸が接触してしまいますと、有機塩素化合物である TCPが生成されます。このときの反応生成量は、スギ材に次亜塩素酸 Na 1200ppm液で 20分間接触させると、この TCPはおよそ 100倍にまで増加するといわれています。(図1)

また、この TCPは特有のフェノール臭を放ち、更に真菌類によってメチル化すると、2,4,6-トリクロロアニソール(以下TCA)というとても強力な臭気を放つ真菌類臭物質が生まれ、大きなクレームに繋がります。(図2)


●未処理17.3ng●次亜塩素酸ナトリウム1308.5ng●オスバン50倍希釈28.1ngTCP(2,4,6-トリクロロフェノール)昇華性が低く、空気中を移動しない。真菌類の存在によって変換され、TCAの生成に繋がる。●TCA(2,4,6トリクロロアニソール)閾値が極めて小さく、昇華性が高いため周囲を浮遊し、包装容器を通過する。



リグニンと次亜塩素酸NaによるTCP、TCAの生成

製缶業界では 1980年に、この TCAが混入していた木製のパレットが原因であるといわれている缶コーヒーの異臭クレームが発生しました。そしてこの事件をきっかけにして、「木」と次亜塩素酸によって生成される有機塩素化合物によって異臭が発生するということがわかりはじめ、近年でも TCAが混入した飲料が「カビ臭い」、「雑巾をしぼった臭いがする」等というクレームを起こし、これを処理するために商品の回収を余儀なくされるケースが多々あります。
またこれらは、ペットボトルや缶のように密閉された包装容器であっても内部にまで浸透し、真菌類臭、いわゆるカビ臭によるクレームに発展し、さらにこの TCAは 100トン中に0.01g(1千億分の1)の混入であっても異臭を感じる様です。このことから、木の利用が多い食品製造環境では次亜塩素酸系の殺菌剤の利用は避けられている様です。


①木材防腐剤PCR→光と真菌類によって変換→TCP→メチル化→TCA→製品移行 ②木材中のリグニン→塩素化→TCP→メチル化→TCA→製品移行



伝統食品と「木」の利用

前述の通り、料理を作る調理器具にはこの「木」が多用されており、これらの殺菌や消毒に次亜塩素酸を用いますと臭気クレームに繋がります。この為、調理器具や製造環境で考えても、和菓子、清酒、蒲鉾などのように「木」を利用する食品業界では次亜塩素酸を用いることは異臭の原因物質を作り出すことに繋がり、特に日本料理にはこの「木」を利用する調理方法が多い事から特に注意が必要です。(例えばまな板、せいろ、木枠、竹かご)

さらに日本家屋も「木」で出来ています。このことから、家庭の消臭殺菌で次亜塩素酸による塩素消毒を頻繁に行うことで TCPや TCAが生成され、いつのまにか真菌類臭、いわゆるカビ臭が付着してしまうことに繋がるケースも想定されます。


リグニンを多く含む根菜類

一方で、このリグニン=木質素は高分子のフェノール化合物であり、植物の細胞壁を構成していることから、特に根菜中に多く含まれており、これらの殺菌に次亜塩素酸系の薬剤を使用してしまいますと、有機塩素化合物生成による臭気変化を招きます。
なお、この次亜塩素酸の反応スピードの速さは、速やかな殺菌を可能にする事と同時に、多用な化合物を生成してしまうという欠点も理解しておく必要があります。


「亜塩素酸水」と木材の反応試験

次亜塩素酸 Naと亜塩素酸水の木材(リグニン)との接触時に生成されるTCPについて、比較試験を実施しています。なお、この試験では、スギ材(10cm×25cm×1cm 約110g)を10倍量の殺菌液に 20分間浸漬し、液きりした後、このスギ材を分析機関で抽出し、ガスクロマトグラフィー質量分析法を用いて検査してみましたところ、次亜塩素酸 Na 1200ppm液に浸漬したスギ材は変色し、薬品臭が着香していましたが、亜塩素酸水の方は臭気付着がみられませんでした。(図4)





























低コンパウンド型殺菌剤:亜塩素酸水

ノロウイルス、O-157などの食中毒の蔓延に伴い、食品に使用可能な殺菌剤は多岐にわたり進化を遂げており、特に、今回紹介させて頂いております「亜塩素酸水」は、新規食品添加物とし
て認可を受けた新しい殺菌料であり、また、高い殺菌効果や、有機物接触時に有機塩素化合物を生成しづらいという特徴を持ち、殺菌処理後の臭気を発生させず、殺菌と同時に消臭することもできます。
また、今回の木材(リグニン)との反応以外にも、食品を殺菌処理した際の匂い移り(=塩素酸化物による殺菌時の反応生成物)も防止できると類推されています。そしてこれらの殺菌処理技術は様々なところで活用されており、正しい知識と理解を元に徐々に解明され、広がりをみせていくのではないかと期待されており、近年ではカルキ臭は塩素自体の臭いではなく、次亜塩素酸 Naとアンモニアが反応したクロラミン由来の臭気であるということも知られ始め、殺菌時に化合物を作りづらい低コンパウンド型の殺菌消毒剤は、快適な環境を生み出す物質としても大いに期待されています。是非一度試してみて下さい。




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2016年6月22日水曜日

亜塩素酸水を用いた生野菜の殺菌効果の検証について

SANKEI NEWS Report 6月号 亜塩素酸水を用いた生野菜の殺菌効果の検証について

カット野菜の需要増加と外食産業での利用

流通技術の進歩と発達に伴いカット野菜の多様化が進み、その流通量は年々増加の一途をたどっており、料理をしない一人暮らしの方のみならず、一般家庭における需要も増加しています。
なお、このカット野菜は簡便で、かつ余り物(ゴミ)が出ないことが好評を得て、鍋物の具材セットのようなキット製品の需要が増加しているようです。
しかも、最近では旬な野菜の価格が下がってもカット野菜の需要は減少しないことから、食卓を飾る定番品となり、今後もさらに需要は高まるのではないかと言われております。(図1)他にも昨今の外食産業では調理スタッフの削減により、調理工程が減少し、加熱、盛付けだけの作業が大半を占め、加工済みのカット野菜は重宝されています。
しかし納品先によっては微生物規格を求められ、殺菌処理が必要になるケースも多く、昨今では原料野菜においても、生食用と同様の規格を求められるようになり、有機栽培や有機農法等の有機野菜類の拡大によって野菜類に付着している糞便由来の微生物を殺菌する事ができる安全な処理方法はますます高まってきています。
 しかも外食産業へ納品する場合には、納品後の保証期間を求められるケースが多く、10℃~20℃で数日間の微生物規格の遵守を求められることも少なくありません。

ここ5年以上、販売個数、販売金額共に増加し続けています。


新規食品添加物:亜塩素酸水

亜塩素酸水は平成 25年に新規食品添加物として認可を受けた食品添加物:殺菌剤であり、有機物存在下であっても安定した殺菌効果が得られることが特徴であり、強力な酸化力によって、芽胞を形成している納豆菌の殺菌や、エンベローブを持たないウイルス類の消毒に効果があると証明されています。そこで、この亜塩素酸水を用いて生野菜を殺菌する方法について検証することにしました。
ただし、生野菜の加工では次亜塩素酸Na、次亜塩素酸水などが多用されていることからこれらを比較区とし、さらに両剤を併用した場合の効果も検証してみることにしました。


殺菌液の組成変化について

ORP(酸化還元電位)は酸化作用における電子の受け取りやすさ=反応性の高さを示す指標であり、各殺菌液の組成を分析しています。(表1)
まず、次亜塩素酸 Naと、塩酸でpH5.5に調製したものを次亜塩素酸水とし、同濃度の 200ppmで比較したところ、次亜塩素酸 Naに比べて次亜塩素酸水はORPが高く、反応性が激しいということがわかり、有機物によって塩素濃度が消失しやすいという組成に変化します。ORPが高ければ殺菌効果が上昇しますが、有機物との反応も進み(激しくなり)微生物を殺菌する前に有機物と反応してしまい、効果は安定しません。
また、次亜塩素酸水と亜塩素酸水の併用区では、その相乗効果によって ORPが上昇するということがわかりました。

亜塩素酸水と次亜塩素酸水を併用すると相乗効果が得られ、ORPが上昇します。

亜塩素酸水による殺菌効果と増殖抑制効果

ネギに対する殺菌テスト(表3)を実施したところ、次亜塩素酸 Na区(①)、次亜塩素酸水区(②)では、次亜塩素酸 Na区の方が殺菌効果が高く、亜塩素酸水の推奨処方区(⑤)では、次亜塩素酸 Naや次亜塩素酸水よりも強い殺菌効果が得られ、殺菌してから水洗し、その後10℃で 48時間保した後に殺菌損傷を受けた微生物が増殖しないという結果が得られています。これは、亜塩素酸水が有機物存在下で安定であり、かつ分子型殺菌剤であるゆえに DNAや、RNAに損傷を与え、複元を起こしにくくするからです。(図2)また、亜塩素酸水と次亜塩素酸水を併用した場合(④)相乗効果を発揮し、亜塩素酸水は 200~400ppm使用することで明確な殺菌効果が得られます。
なお、今回の検証では野菜を洗わずに殺菌しており、非常に厳しい条件下でテストしています。そこで、本来は事前に水洗や洗浄をしたり、場合によっては殺菌等の前処理を施されていることも多く、実際に使用する際の条件で考えますと、更なる効果が得られるはずだと考えます。

カット→浸漬殺菌処理→水洗→液切り→保存試験

有機物反応の違い

次亜塩素酸水はスピーディーな殺菌効果が特徴であり、次亜塩素酸 Naの 1/4程度での使用が推奨されていますが、分解反応が早すぎるために、野菜の浸出液(有機物)が多いものでは目立った殺菌効果が得られず、次亜塩素酸 Naよりもやや悪い結果になる場合があります。特にネギ、キュウリなどはスライス回数が多く、処理液に野菜成分等の有機物が多く浸出するため、殺菌前にこの野菜成分(有機物)と次亜塩素酸が反応し、消失してしまいます。

しかし、亜塩素酸水の殺菌効果は緩やかですが有機物に強く、塩素濃度が持続することで細菌に損傷を与えます。しかも、低コンパウンド型の殺菌剤であり、食品(有機物)と接触しても有機塩素化合物を生成しない事が、次亜塩素酸系の殺菌と比べた時のメリットになります。また、これまでの研究から不快なトリハロメタン(カルキ臭)やフェノール類を生成しないことも判明しており、塩素使用後に不快な臭気が残らず、食品の風味を損ねずに殺菌できるというのも特徴だといえます。

●イオン体:タンパク損傷させることで、初発菌検査には検出されませんが、すぐ復元します。●分子型:DNA、RNAを直接損傷させるので復元されません。
















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2016年6月16日木曜日

日本酒における火落菌対策について


SANKEI NRES Report 6月号 日本酒における火落菌対策について

日本酒と火落菌

人類の歴史と密接な関わりを持つお酒には、大きく分けて醸造酒(清酒、ビール、ワイン等)と、蒸留酒(ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、焼酎等)があり、各地の気候、各民族固有の文化や食事に合わせて発展してきましたが、世界で最もアルコール度数が高い醸造酒が清酒だということはあまり知られていません。
これは同タンク内において糖化とアルコール発酵による並行複発酵技術の賜物であり、20度を超える原酒は複雑な清酒製造技術によって作られています。しかし、このような高いアルコール度数の中であっても増殖できる微生物は存在しており、それが火落菌と呼ばれる乳酸桿菌の一種なのです。
そしてこれら微生物類が増殖し始めると“火落ち”という、清酒の白濁や異臭や異味の付加現象が現れ、清酒に悪影響を与えてしまいます。また、清酒の製造環境における火落菌は真性火落菌と火落性乳酸菌の 2つに分けられており、真性火落菌はアルコール耐性が非常に強く、25度の原酒でも繁殖します。一方、火落性乳酸菌はアルコール耐性は 15度程度ですが増殖スピードが速く、主に市販酒において火落ち現象を引き起こします。特に真性火落菌は殺菌剤に対する耐性がが強く、あらゆる場所の空気中に漂っているため、呑みきり(検品)時に、タンク内に入り込むこともあるようです。


●原酒(アルコール18~25度)水を加えていないもろみを絞った酒。●市販酒(アルコール15~16度)ろ過、割り水でアルコールを調製した酒、●新酒 まだ火入をしていない清酒。また、その年に採れたお米で醸造して春に出荷する酒。真性火落菌(エタノール耐性が高い)RIB9161 Lactobacillus fructivoransH-1、RIB9124 Lactobacillus homohiochii S-24、 火落性乳酸菌 9107 Lactobacillus hilgardii S-7、9108 Lactobacillus casei S-8


日本酒の製造工程と火落菌

清酒の製造工程は主に2段階に分かれており、原料米を発酵させ、貯蔵するまでの工程と、貯蔵した清酒を市販酒規格に合わせて調合し、瓶詰めしてから出荷するまでの工程があります。
この工程中で、アルコールが 25度程度でも増殖する真性火落菌は、原酒を貯蔵タンクで保管している間に増殖し、また、火落性乳酸菌は、アルコールが15度程度でしか繁殖できませんが、市販酒を販売している間や、購入後の保管中に増殖します。
 また、火落菌ではなくても乳酸桿菌全般は醸造環境で問題になることが多く、アルコールや酢を製造している環境下ではアルコールや酸に耐性がある微生物類が増殖しやすい条件が揃っています。よってこれら乳酸桿菌が異常増殖してしまうという問題も生じています。


もろみ→圧搾→新酒→ろ過→火入→貯蔵、熟成→呑みきり→貯蔵→ろ過→調合・割り水→瓶詰め→出荷


火落菌と火入れ処理

清酒は非常にデリケートなお酒です。したがいまして、火落菌対策として、貯蔵前、出荷前と2回も火入れをすることは、技術が進歩したとは言え、繊細な清酒の風味を損ねてしまいます。
特に、精米歩合が高い大吟醸や純米吟醸などの高品質な清酒は火入れによる劣化ダメージを出来るかぎり避ける必要があり、火入れだけに頼らない方法が求められています。


亜塩素酸水による火落菌殺菌

亜塩素酸水は平成 25年に新規食品添加物として認可を受けた食品添加物:殺菌剤であり、芽胞を形成させた納豆菌の殺菌や、エンベローブを持たないウイルス類の消毒にその効果が期待されています。そこで、真性火落菌と火落性乳酸菌に対する殺菌効果を検証してみることにしました。
まず、真性火落菌、火落性乳酸菌それぞれ4種類の菌に対して殺菌剤を5分間、10分間接触させ、混釈培養してその低減効果を確認してみました。このときの殺菌濃度は次亜塩素酸 Naを基準とする遊離残留塩素濃度(酸化力)に合わせて比較したところ、特に真性火落菌が殺菌しづらいということがわかりました。また、亜塩素酸水区は、殺菌5分後で 104個を陰性にまで滅菌することができ、次亜塩素酸 Na区は殺菌5分後も 10 3~104であり、ほとんど殺菌効果が見られていません。<表1>
また、殺菌時間を 10分にしますと殺菌効果が認められ、真性火落菌の殺菌には、おおよそ 10分程度の接触時間が必要になるということがわかりました。なお、真性火落菌が増殖する製造工程としましては、原酒を貯蔵する段階が最も多く、吟醸酒を貯蔵する前のタンク内の殺菌や、呑みきり時の呑みきり器を消毒することで、原酒の保管中における真性火落菌の混入を防止することができます。

















金属腐食について

亜塩素酸水は SUS-304などのステンレスに対する金属腐食が少ないという特徴があります。ただし、塩素酸化物の一種であり強い酸化力を有しているため、磁性を帯びる素材には錆が発生しやすく、この素材を使用している場合は、処理後必ず水洗してください。
ただし、火落菌対策として、原酒を保管する貯蔵タンク内の事前殺菌や呑みきり時における各種専用器具類の殺菌、その他、火落菌の混入の可能性が高い環境下でも殺菌効果を発揮します。

有効塩素濃度1600ppmの亜塩素酸水に浸漬しても錆びません。


亜塩素酸水を用いた火落菌対策

亜塩素酸水は有機塩素化合物を生成することが少なく、塩素酸化物の残臭がほとんどなく、清酒製造環境においても安心して使用することができる塩素酸化物の一つです。
ただし、実際の製造現場では殺菌を阻害する有機物等が存在しますので、殺菌濃度をあらかじめ検証しておく必要があります。しかし、これからの清酒の製造における有用な新しい殺菌剤であることに間違いはありません。


「亜塩素酸水」を主たる有効成分と した殺菌料であり、食品添加物のみ で構成されています。有機物存在下 でも高い殺菌効果を示す一方、金属 や布などの素材を傷めにくいという 性質を有しております。


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2016年5月9日月曜日

<食品衛生法>大腸菌(E.coli)と、<細菌学>糞便系大腸菌群


SANKEI NEWS Report 5月号 大腸菌(E.coli)と糞便系大腸菌について



細菌(微生物)学と食品衛生法上で異なる大腸菌の定義
 
食品衛生法では「各食品別に細菌学的成分規格」が定められています。また、成分規格以外にも、製造基準、調理基準、保存基準及び加工基準にも微生物の規格が定められています。さらに、「衛生規範」では、食品衛生の確保及び向上を図るために、食品衛生法の成分規格になじまず、しかも食中毒が多発している食品を取り上げ、その微生物に関する指導基準が定められています。
これらの規格に基づきスーパーマーケットやコンビニエンスストア等でも製品別に自主規格を定められています。これら店舗の衛生管理と安全性を同時に評価する指標菌として、「大腸菌群Coriforms」、「糞便系大腸菌 Fecal coliforms(E.coli)」および「大腸菌 Escherichia coli」があます。これらは食品が衛生的に取り扱われ、さらに、病原微生物汚染の可能性があるか否かを示しており、その測定方法は明確に区分されています。
しかし、細菌分類学上の「大腸菌」と、食品衛生法上の「大腸菌(E.coli)」は、異なる用語であり、そもそも食品衛生法上では「大腸菌」の規格基準は存在していません。
そして食品衛生法上で記載されている「E.coli」は、EC発酵管を44.5℃で24時間培養し、ガス産生した細菌群であり、(その後 IMViC試験が定められています。)これは糞便系大腸菌群E.coli)のことを指しているため、「E.coli(または大腸菌(E.coli))=糞便系大腸菌群」というのが正解です。

○大腸菌は2種類ある
 A)細菌分類学上の学名
 B)食品衛生法上の行政用語
  ※但し、B)の大腸菌( E.coli)は糞便系大腸菌群(E.coli)のことである。
○食品衛生法上には大腸菌の規格は無い

弁当及びそうざいの衛生規範で言う「大腸菌」とは
 
一方で昭和 54年に公開されている「弁当及びそうざいの衛生規範」では、「大腸菌が陰性であること」という記述が見られ、食品衛生法上にも大腸菌が陰性であるという規格があると見て取れる表現(厳密には糞便系大腸菌(E.coli))が存在しています。
しかし、正しくは「冷凍食品の規格基準で定められた E.coliの試験法により、大腸菌は陰性であること。」※1までが記載されており、冷凍食品の E.coliの試験法とは、試料液を 10倍希釈(100倍希釈試料液)し、EC発酵管法で 44.5±2℃で 24時間培養し、ガスが産生されているのかどうかを確認すること ※2(その後 IMViC試験が定められています。)と記載されていますので、ここでも細菌分類学上の糞便系大腸菌群を測定していることがわかります。

また、糞便系大腸菌群(E.coli)は、ヒトまたは動物の糞便由来の大腸菌群であり、自然界に広く分布し、死滅しやすい事から、

 1)  糞便由来の汚染がみられるということ。
 2)比較的新しい糞便汚染がみられるということ。

以上の2点を示す汚染指標菌であるとされています。

冷凍食品の規格基準で定められたE.coliの試験法により、大腸菌は陰性であること試験液を10倍希釈(100倍希釈試料液)し、1mlずつ3本のE.C.はっ酵管に接触し、恒温水槽を用いて44.5℃±0.2で24時間±2で培養する。その際、ガス発生を認めた試料は、推定試験陽性とし、ガス発生を認めないものは推定試験陰性とする。











「糞便系大腸菌群=大腸菌(E.coli)」の測定方法

糞便系大腸菌群=大腸菌(E.coli)の測定では、EC発酵管を用いて44.5℃±2℃で24時間後のガスの産生を確認することと定められていますが、一部ではペトリフィルム(ドライ培地)や、ESコリマーク寒天培地などの合成酵素基質培地を用いて測定した結果を、食品衛生法上の大腸菌(E.coli)を測定していると勘違いされているケースがみうけられます。
これらの培地は、大腸菌の特徴を示すβ-グルクロニダーゼ活性を指標とし、これらが存在していた場合には気泡を含む青色コロニーが現れて、違う場合には気泡を含む赤色コロニーが現れてきます。よって、これは細菌分類学上の大腸菌を測定しており、しかもβ-グルクロニダーゼ活性がある大腸菌しか測定しておらず、肝心のO-157等の一部の病原性大腸菌は測定されていないということになります。(図1)

このように合成酵素基質培地での判定は、煩雑なIMViC試験を実施せずに大腸菌の存在を推定できる簡易測定方法であり、糞便系大腸菌群=食品衛生法上の大腸菌(E.coli)と細菌分類学上の大腸菌(IMViC試験)は異なっておりますが、末端の測定現場では誤解されているケースが多く、また、食品衛生法上の大腸菌(E.coli)の試験を簡便に行おうとして、ECプレートなどの合成酵素基質培地を用いられているケースも多々みうけられますが、食品において、貝類は自身の細胞内にβ-グルクロニダーゼ活性を持ち、食肉や魚肉では少しのβ-グルクロニダーゼを有し、それによって試験が妨害されることがありますので、注意が必要です。
従って、合成酵素基質培地は細菌分類学上の大腸菌の測定方法としては有効ですが、食品由来の汚染指標菌の測定方法としては適切ではありません。

ペトリフィルム(ドライ培地)や、ESコリマーク寒天培地などの合成酵素基質培地を用いて測定した結果では、一部の病原性大腸菌を測定できません。
酵素基質培地はβグルクロニダーゼを活性とする大腸菌のみであり、食品衛生法上のE.coliとは異なります。





















食品衛生管理における糞便汚染指標菌

糞便系大腸菌群という言葉を使用する例としては、施設環境があり、例えば、同じ測定方法の同じ菌種であったとしても、トイレでは糞便系大腸菌群と呼びますが、食品では大腸菌(E.coli)と呼びます。
このように食品の衛生管理方法しましては、糞便系大腸菌群=大腸菌(E.coli)を測定することで、直接的な糞便汚染がみられるという判断を下すことができます。
しかし、大腸菌には細菌分類学上の呼び方と、食品衛生法上での呼び方の2つが存在し、測定しているものの違いを理解しておかなければ、せっかくの品質を管理されているのにも関わらず、期待している程の効果は得られません。
特に酵素基質培地で測定した菌種を食品衛生法上での大腸菌(E.coli)と勘違いしてしまいますと、糞便系大腸菌群を測定していないことと、O-157等の一部の病原性大腸菌は測定されておらず、品質管理上で本来測定し、管理しておきたい菌種とは異なってしまいます。
このこには、十分な注意を払い、対応して頂く必要があります!!

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日本酒の品質向上と袋香対策



SANKEI NEWS Report 4月号 袋香対策にともなう日本酒の品質向上について

日本酒の評価を低下させる臭気の問題


日本酒の官能評価には香味特性を表すいくつかの用語が存在しており、品質の劣化を表す項目の中には、成分中の物質が何らかの作用で変化する事によって発生する異臭があり、その代表的な表現の1つに「袋香」という言葉があります。なお、この「袋香」という言葉は、一般的には袋や綿の臭い等の事を指しますが、実際には、醪を搾る酒袋を使用した後、洗浄し、保管している間に発生してくる真菌(カビ)類によって生成される異臭、いわゆる、圧搾後に酒袋を洗浄し、乾燥し、保管し、これをそのまま次の仕込みに利用すると、古い衣類の臭気に似た臭いが圧搾した日本酒に付着してしまう事がありますが、この臭気(異臭)を表す言葉としてつかわれています。
しかも、この臭いは袋に付着していた微量の日本酒成分が保管中に酸化し、微生物、特に真菌類の増殖によって発生する複合臭だといわれており、実際には酸化臭・劣化臭等が複雑に絡んだ移り香の総称名です。
しかし厄介な事に、この袋香は製品として出荷された後、数日~数週間経過した後でないと確認されません。(出来立てではわからない)その為に大きな問題に発展してしまう事もあり、酒造メーカーでは大変困惑されている様です。従いまして、日本酒の品質向上の為には、この袋香が発生するメカニズムを解明し、制御する方法を確立しておく事はとても重要な事のようです。

袋香について

袋香は、酒袋に残留する微量の有機物の酸化と微生物が保管中に増殖する事によって発生すると言われており、使用後丁寧に、アルカリ洗浄剤で処理し、乾燥し、保管していても真菌類が残り、これらが増殖し、異臭が発生する事があるといわれています。 また、このしつこい臭気は何度洗濯しても取れない衣類で経験された事があると思います。
花王㈱安全性評価研究所(2011.5.26)によりますと、異臭を発する衣類に付着していた微生物を、滅菌済みのタオルに付着させたところ、異臭の原因物質が多量に検出される事がわかり、この事から考えてみましても、布製品の臭気と微生物は深く関わっているのだといえます。また、近年の日本酒の製造技術において微生物の利用はかなり進んでおり、それと同時に洗浄、殺菌、消毒等の微生物の制御方法も定着しつつあるといえます。

袋香対策と殺菌処理

酒袋で発生する袋香の原因を解消する手段として、脱臭処理や、殺菌処理などの対策が考えられ、そのために次亜塩素酸ナトリウムで処理していますと、逆に塩素臭の付着や塩素化合物の付着が懸念され、しかも、袋の繊維や圧搾袋の素材を傷めてしまい、結果として異物の混入にも繋がってしまいます。
そこで、この次亜塩素酸ナトリウムは酒造りの環境でその使用は避けられている場合が多く、その理由は次亜塩素酸ナトリウムと木材中のリグニンと反応して生成される2,4,6-トリクロロフェノール(TCP)や2,4,6-トリクロロアニソールが日本酒の品質を下げてしまうようです。




塩素と有機物との化合物生成について


日本酒鑑評会において真菌類が関与している異臭が問題になるケースは多々ありますが、この真菌類の増殖によって発生するカビ臭の原因は、前駆体の 2,4,6-トリクロロフェノール(TCP)が真菌類(カビ)によってメチル化し、2,4,6-トリクロロアニソール(TCA)に変化するからだといわれており、T CPはそもそも木材に含まれている場合と、木材中のリグニンと次亜塩素酸ナトリウムが反応し、有機塩素化合物が生成される場合の 2通りあるようです。
 
独立行政法人酒類総合研究所のレポートでは、製麹関係の木材を使用した用具、麹室板壁の消毒には次亜塩素酸ナトリウムの使用は厳禁であると記されており、すべての塩素酸化物が TCPを生成するのか?それとも次亜塩素酸ナトリウムだけにみられる現象なのかに関するデータは不足しています。そこで、殺菌消毒剤メーカーの立場から木材と塩素酸化物との接触試験を実施してみることにしました。
 
まずはリグニンを豊富に含むスギ材と塩素酸化物による接触試験を行い、TCPの生成量の違いについて確認してみました。なお、先の独立行政法人酒類総合研究所からのレポートでは、次亜塩素酸ナトリウム 1200ppmに 20分間接触させると TCPは1300ppb(スギ材 1g当たりの含有量)以上検出(表1)されており、同様の方法で「次亜塩素酸ナトリウム」と「亜塩素酸水」を用いて TCPの生成量の違いについて確認してみました。(表2) その結果、亜塩素酸水は、次亜塩素酸ナトリウムと比較しますと、1/25の生成量しかなく、塩素の種類によって有機塩素化合物(TCP)の生成量は大幅な違いがあるというデータが得られ、元々自然のスギ材には、微量の TCPが含まれていますが、塩素の種類によってはほとんど TCPを生成しない可能性も期待されており、特に亜塩素酸はトリハロメタンやクロラミンを発生させづらいことが知られています。


ブランク:17.3ng、オスバン:28.1ng、次亜塩素酸Na:1308.5ng次亜塩素酸Na:75ng、亜塩素酸水:3ng













「亜塩素酸水」を用いた袋香対策

「亜塩素酸水」は有機塩素化合物の生成量が少なく、日本酒製造環境で安心して使用できる塩素酸化物の一つであり、この「亜塩素酸水」を用いて袋香対策を講じる際には、200~400ppmの亜塩素酸水液を作成(尚、この液の有効残留塩素濃度:酸化力は、必ず確認すること。)し、これを圧搾機に設置した酒袋の出口側からポンプで注入し、醪投入入り口から溢れるまで注入します。その後2~3日間放置し、流水でよくすすいだ後、圧搾を開始して下さい。そうしますと、袋香が発生する事なく日本酒を製造する事ができるようになります。特に初槽の時期の袋香対策には目をみはる効果を発揮いたします。

塩素系殺菌消毒剤の多様化


ノロウイルス、O-157などの食中毒の蔓延に伴い食品に使用可能な殺菌消毒剤は多様な進化を遂げており、特に、今回紹介させて頂いております「亜塩素酸水」は新規食品添加物として認可を受けた新しい殺菌剤であり、高い殺菌効果や、有機物接触時に有機塩素化合物を生成しづらいという特徴を持ち、これが塩素殺菌後の臭気を発生させずに殺菌する事に繋がり、今回の木材(リグニン)との反応以外にも、食品を殺菌した際の匂い移り(=塩素酸化物による殺菌時の反応生成物)も防止できると類推されています。
そしてこれらの殺菌消毒技術は様々な環境で活用されており、正しい知識と理解を元に徐々に解明され、広がりをみせていくのではないかと期待され、近年ではカルキ臭は塩素自体の臭いではなく、次亜塩素酸 Naとアンモニアが反応したクロラミン由来の臭気であるということも知られ始め、殺菌時に化合物を作りづらい低コンパウンド型の殺菌消毒剤は、快適な環境を生み出す物質としても大いに期待されています。


「亜塩素酸水」を主たる有効成分とした殺菌料であり、食品添加物のみで構成されています。有機物存在下でも高い殺菌効果を示す一方、金属や布を傷めにくい性質を持っています

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