2016年6月22日水曜日

亜塩素酸水を用いた生野菜の殺菌効果の検証について

SANKEI NEWS Report 6月号 亜塩素酸水を用いた生野菜の殺菌効果の検証について

カット野菜の需要増加と外食産業での利用

流通技術の進歩と発達に伴いカット野菜の多様化が進み、その流通量は年々増加の一途をたどっており、料理をしない一人暮らしの方のみならず、一般家庭における需要も増加しています。
なお、このカット野菜は簡便で、かつ余り物(ゴミ)が出ないことが好評を得て、鍋物の具材セットのようなキット製品の需要が増加しているようです。
しかも、最近では旬な野菜の価格が下がってもカット野菜の需要は減少しないことから、食卓を飾る定番品となり、今後もさらに需要は高まるのではないかと言われております。(図1)他にも昨今の外食産業では調理スタッフの削減により、調理工程が減少し、加熱、盛付けだけの作業が大半を占め、加工済みのカット野菜は重宝されています。
しかし納品先によっては微生物規格を求められ、殺菌処理が必要になるケースも多く、昨今では原料野菜においても、生食用と同様の規格を求められるようになり、有機栽培や有機農法等の有機野菜類の拡大によって野菜類に付着している糞便由来の微生物を殺菌する事ができる安全な処理方法はますます高まってきています。
 しかも外食産業へ納品する場合には、納品後の保証期間を求められるケースが多く、10℃~20℃で数日間の微生物規格の遵守を求められることも少なくありません。

ここ5年以上、販売個数、販売金額共に増加し続けています。


新規食品添加物:亜塩素酸水

亜塩素酸水は平成 25年に新規食品添加物として認可を受けた食品添加物:殺菌剤であり、有機物存在下であっても安定した殺菌効果が得られることが特徴であり、強力な酸化力によって、芽胞を形成している納豆菌の殺菌や、エンベローブを持たないウイルス類の消毒に効果があると証明されています。そこで、この亜塩素酸水を用いて生野菜を殺菌する方法について検証することにしました。
ただし、生野菜の加工では次亜塩素酸Na、次亜塩素酸水などが多用されていることからこれらを比較区とし、さらに両剤を併用した場合の効果も検証してみることにしました。


殺菌液の組成変化について

ORP(酸化還元電位)は酸化作用における電子の受け取りやすさ=反応性の高さを示す指標であり、各殺菌液の組成を分析しています。(表1)
まず、次亜塩素酸 Naと、塩酸でpH5.5に調製したものを次亜塩素酸水とし、同濃度の 200ppmで比較したところ、次亜塩素酸 Naに比べて次亜塩素酸水はORPが高く、反応性が激しいということがわかり、有機物によって塩素濃度が消失しやすいという組成に変化します。ORPが高ければ殺菌効果が上昇しますが、有機物との反応も進み(激しくなり)微生物を殺菌する前に有機物と反応してしまい、効果は安定しません。
また、次亜塩素酸水と亜塩素酸水の併用区では、その相乗効果によって ORPが上昇するということがわかりました。

亜塩素酸水と次亜塩素酸水を併用すると相乗効果が得られ、ORPが上昇します。

亜塩素酸水による殺菌効果と増殖抑制効果

ネギに対する殺菌テスト(表3)を実施したところ、次亜塩素酸 Na区(①)、次亜塩素酸水区(②)では、次亜塩素酸 Na区の方が殺菌効果が高く、亜塩素酸水の推奨処方区(⑤)では、次亜塩素酸 Naや次亜塩素酸水よりも強い殺菌効果が得られ、殺菌してから水洗し、その後10℃で 48時間保した後に殺菌損傷を受けた微生物が増殖しないという結果が得られています。これは、亜塩素酸水が有機物存在下で安定であり、かつ分子型殺菌剤であるゆえに DNAや、RNAに損傷を与え、複元を起こしにくくするからです。(図2)また、亜塩素酸水と次亜塩素酸水を併用した場合(④)相乗効果を発揮し、亜塩素酸水は 200~400ppm使用することで明確な殺菌効果が得られます。
なお、今回の検証では野菜を洗わずに殺菌しており、非常に厳しい条件下でテストしています。そこで、本来は事前に水洗や洗浄をしたり、場合によっては殺菌等の前処理を施されていることも多く、実際に使用する際の条件で考えますと、更なる効果が得られるはずだと考えます。

カット→浸漬殺菌処理→水洗→液切り→保存試験

有機物反応の違い

次亜塩素酸水はスピーディーな殺菌効果が特徴であり、次亜塩素酸 Naの 1/4程度での使用が推奨されていますが、分解反応が早すぎるために、野菜の浸出液(有機物)が多いものでは目立った殺菌効果が得られず、次亜塩素酸 Naよりもやや悪い結果になる場合があります。特にネギ、キュウリなどはスライス回数が多く、処理液に野菜成分等の有機物が多く浸出するため、殺菌前にこの野菜成分(有機物)と次亜塩素酸が反応し、消失してしまいます。

しかし、亜塩素酸水の殺菌効果は緩やかですが有機物に強く、塩素濃度が持続することで細菌に損傷を与えます。しかも、低コンパウンド型の殺菌剤であり、食品(有機物)と接触しても有機塩素化合物を生成しない事が、次亜塩素酸系の殺菌と比べた時のメリットになります。また、これまでの研究から不快なトリハロメタン(カルキ臭)やフェノール類を生成しないことも判明しており、塩素使用後に不快な臭気が残らず、食品の風味を損ねずに殺菌できるというのも特徴だといえます。

●イオン体:タンパク損傷させることで、初発菌検査には検出されませんが、すぐ復元します。●分子型:DNA、RNAを直接損傷させるので復元されません。
















SANKEI NEWS Report 7月号 PDF版↓
https://drive.google.com/file/d/0BwbDyV31W2pXWkt6UENDVG0xUFU/view?usp=sharing

2016年6月16日木曜日

日本酒における火落菌対策について


SANKEI NRES Report 6月号 日本酒における火落菌対策について

日本酒と火落菌

人類の歴史と密接な関わりを持つお酒には、大きく分けて醸造酒(清酒、ビール、ワイン等)と、蒸留酒(ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、焼酎等)があり、各地の気候、各民族固有の文化や食事に合わせて発展してきましたが、世界で最もアルコール度数が高い醸造酒が清酒だということはあまり知られていません。
これは同タンク内において糖化とアルコール発酵による並行複発酵技術の賜物であり、20度を超える原酒は複雑な清酒製造技術によって作られています。しかし、このような高いアルコール度数の中であっても増殖できる微生物は存在しており、それが火落菌と呼ばれる乳酸桿菌の一種なのです。
そしてこれら微生物類が増殖し始めると“火落ち”という、清酒の白濁や異臭や異味の付加現象が現れ、清酒に悪影響を与えてしまいます。また、清酒の製造環境における火落菌は真性火落菌と火落性乳酸菌の 2つに分けられており、真性火落菌はアルコール耐性が非常に強く、25度の原酒でも繁殖します。一方、火落性乳酸菌はアルコール耐性は 15度程度ですが増殖スピードが速く、主に市販酒において火落ち現象を引き起こします。特に真性火落菌は殺菌剤に対する耐性がが強く、あらゆる場所の空気中に漂っているため、呑みきり(検品)時に、タンク内に入り込むこともあるようです。


●原酒(アルコール18~25度)水を加えていないもろみを絞った酒。●市販酒(アルコール15~16度)ろ過、割り水でアルコールを調製した酒、●新酒 まだ火入をしていない清酒。また、その年に採れたお米で醸造して春に出荷する酒。真性火落菌(エタノール耐性が高い)RIB9161 Lactobacillus fructivoransH-1、RIB9124 Lactobacillus homohiochii S-24、 火落性乳酸菌 9107 Lactobacillus hilgardii S-7、9108 Lactobacillus casei S-8


日本酒の製造工程と火落菌

清酒の製造工程は主に2段階に分かれており、原料米を発酵させ、貯蔵するまでの工程と、貯蔵した清酒を市販酒規格に合わせて調合し、瓶詰めしてから出荷するまでの工程があります。
この工程中で、アルコールが 25度程度でも増殖する真性火落菌は、原酒を貯蔵タンクで保管している間に増殖し、また、火落性乳酸菌は、アルコールが15度程度でしか繁殖できませんが、市販酒を販売している間や、購入後の保管中に増殖します。
 また、火落菌ではなくても乳酸桿菌全般は醸造環境で問題になることが多く、アルコールや酢を製造している環境下ではアルコールや酸に耐性がある微生物類が増殖しやすい条件が揃っています。よってこれら乳酸桿菌が異常増殖してしまうという問題も生じています。


もろみ→圧搾→新酒→ろ過→火入→貯蔵、熟成→呑みきり→貯蔵→ろ過→調合・割り水→瓶詰め→出荷


火落菌と火入れ処理

清酒は非常にデリケートなお酒です。したがいまして、火落菌対策として、貯蔵前、出荷前と2回も火入れをすることは、技術が進歩したとは言え、繊細な清酒の風味を損ねてしまいます。
特に、精米歩合が高い大吟醸や純米吟醸などの高品質な清酒は火入れによる劣化ダメージを出来るかぎり避ける必要があり、火入れだけに頼らない方法が求められています。


亜塩素酸水による火落菌殺菌

亜塩素酸水は平成 25年に新規食品添加物として認可を受けた食品添加物:殺菌剤であり、芽胞を形成させた納豆菌の殺菌や、エンベローブを持たないウイルス類の消毒にその効果が期待されています。そこで、真性火落菌と火落性乳酸菌に対する殺菌効果を検証してみることにしました。
まず、真性火落菌、火落性乳酸菌それぞれ4種類の菌に対して殺菌剤を5分間、10分間接触させ、混釈培養してその低減効果を確認してみました。このときの殺菌濃度は次亜塩素酸 Naを基準とする遊離残留塩素濃度(酸化力)に合わせて比較したところ、特に真性火落菌が殺菌しづらいということがわかりました。また、亜塩素酸水区は、殺菌5分後で 104個を陰性にまで滅菌することができ、次亜塩素酸 Na区は殺菌5分後も 10 3~104であり、ほとんど殺菌効果が見られていません。<表1>
また、殺菌時間を 10分にしますと殺菌効果が認められ、真性火落菌の殺菌には、おおよそ 10分程度の接触時間が必要になるということがわかりました。なお、真性火落菌が増殖する製造工程としましては、原酒を貯蔵する段階が最も多く、吟醸酒を貯蔵する前のタンク内の殺菌や、呑みきり時の呑みきり器を消毒することで、原酒の保管中における真性火落菌の混入を防止することができます。

















金属腐食について

亜塩素酸水は SUS-304などのステンレスに対する金属腐食が少ないという特徴があります。ただし、塩素酸化物の一種であり強い酸化力を有しているため、磁性を帯びる素材には錆が発生しやすく、この素材を使用している場合は、処理後必ず水洗してください。
ただし、火落菌対策として、原酒を保管する貯蔵タンク内の事前殺菌や呑みきり時における各種専用器具類の殺菌、その他、火落菌の混入の可能性が高い環境下でも殺菌効果を発揮します。

有効塩素濃度1600ppmの亜塩素酸水に浸漬しても錆びません。


亜塩素酸水を用いた火落菌対策

亜塩素酸水は有機塩素化合物を生成することが少なく、塩素酸化物の残臭がほとんどなく、清酒製造環境においても安心して使用することができる塩素酸化物の一つです。
ただし、実際の製造現場では殺菌を阻害する有機物等が存在しますので、殺菌濃度をあらかじめ検証しておく必要があります。しかし、これからの清酒の製造における有用な新しい殺菌剤であることに間違いはありません。


「亜塩素酸水」を主たる有効成分と した殺菌料であり、食品添加物のみ で構成されています。有機物存在下 でも高い殺菌効果を示す一方、金属 や布などの素材を傷めにくいという 性質を有しております。


SANKEI NEWS Report 6月号 PDF版↓
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