2017年3月29日水曜日

生食用鮮魚介類、生食用かき及び冷凍食品(生食用)の加工基準の改正

生食用鮮魚介類の加工基準改正の経緯
近年、生食用鮮魚介類の加工基準の改正が進んでいますが、この加工基準は、「食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について」という厚生労働省告示によって法制化されており、その始まりは昭和46年と意外に古く、その当時は鮮魚介類には化学合成品たる添加物はいかなる理由があっても使用してはならないと定めていましたが、近年の食品の多様性を考慮し、殺菌を目的とする場合に限り、その安全性が確認出来た食品添加物については加工基準の中に取り入れていくという方向性が生まれ、平成13年からは殺菌を目的とした場合に限り、次亜塩素酸ナトリウムが生食用鮮魚介類に使用することができるようになり、これによって衛生基準を満たすことができるようになりました。
さらに平成28年には2回改正され、生食用鮮魚介類への直接殺菌剤として、亜塩素酸水、次亜塩素酸水などの新しい殺菌技術が追加されました。<表1>


加工基準における原料用鮮魚介類に対する添加物の使用について
生食用鮮魚介類の加工基準の中には、“原料用鮮魚介類”という表現があり、平成13年厚生労働省告示第213号において、「第213号における生食用鮮魚介類の加工基準中の(5)の処理を行っていない鮮魚介類については、化学的合成品たる添加物の使用規定は適用されないこと。」という記述があります。
またこれは、生食用鮮魚介類として加工される以前の鮮魚介類については、化学合成品たる添加物の使用を妨げるものではないという事でもあり、原料用鮮魚介類の段階では、衛生基準を満たすため、いわゆる殺菌を目的としている場合、化学合成品たる添加物を使用できるという事になります。
但し、食品添加物の使用基準と、最終製品において、消費者誤認を招くような欺瞞的使用方法は、添加物本来の目的とは異なる為、認められていないことは大前提となります。

生食用鮮魚介類を原料にした場合の加工基準
生食用鮮魚介類は、原料用鮮魚介類に殺菌処理を施すことによって衛生的な状態となった最終製品であり、生食用鮮魚介類を原料として購入し、再度、生食用鮮魚介類に加工した場合、その取り扱いには十分な注意が必要となります。
特に、海外でフィレ加工した生食用鮮魚介類を原料として輸入し、これを国内で生食用鮮魚介類として再加工した場合、原料用鮮魚介類とは認められず、この原料は生食用鮮魚介類の加工基準が適用済みの状態となり、化学合成品たる添加物を使用することはできません。<表2>
これは、そもそも生食用鮮魚介類に加工された段階で、すでに衛生基準が満たされているはずであるという考えが根底にあるからです。

生食用鮮魚介類とその対象業者
最終製品として市場流通される生食用鮮魚介類は、一般に消費者が加熱せず、そのまま摂取する事が前提であり、軽度な加工が施されるもの(刺身、すし、和え物、酢の物)だけはこの中に含まれています。また、対象業者としましては、魚介類せり売業者、仲買業者、魚介類販売業者、製造加工業者、 および一部の飲食店営業者であり、製造加工業者としては、むき身業者、ゆで貝、 ゆでたこ、ゆでいか、ゆでかに、ゆでえび等の製造加工業者、生節の製造業者、生しらすの製造業者と、一部の飲食店営業者であり、この一部の飲食店営業者には、すし屋及び刺身等を作る料理店が含まれていますので、やはり最終製品となる生食用鮮魚介類を消費者へ提供する業者が対象であるということはわかっていただけるのではないでしょうか?
また、冷凍食品(生食用鮮魚介類に限る。)及び生食用かき(生食用鮮魚介類等)についても生食用鮮魚介類と同様に改正されており、<表3>このように、生食される鮮魚介類については、全体的に改正され、最終消費者に対する食の安全性を確保する為に、衛生基準を担保するという点が、より強調された結果だと言えるのではないでしょうか?

まとめ
これまで、漁港に併設されていた加工場では処理水に海水を直接使用していましたが、この海水を殺菌し、飲用適の食品製造用水を用いることにした平成13年の加工基準大幅改正により、これ以降、腸炎ビブリオによる食中毒は激減することとなり、これは国内企業の衛生管理基準の強化による賜物であると捉えられています。
しかし、海外で加工されたものも生食用鮮魚介類であり、これを国内で二次加工して生食用鮮魚介類として商品化する際には、すでに加工基準が適用済みであることをご存知ではない方も多く、今や、コンビニでも寿司が販売されている時代であります。今回、改正されました食品衛生法につきましては、再確認していただきますと共に、安全な鮮魚介類が正しく流通されることを望んでやみません。


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2017年3月16日木曜日

アブラナ科野菜類のワックス成分の 除去と殺菌効果の助長について


アブラナ科野菜の水はじきと界面活性剤

アブラナ科の野菜類や(キャベツ、ブロッコリー、水菜等)、パクチー、大麦若葉等の野菜類は、ロウ質であるワックス成分(ワックスブルーム)を生成する事で、乾燥や低温や太陽光線(直射日光)、更には害虫等からその身を守っています。そのため、このロウ質によって、野菜表面の水はじきが強くなるという特徴を持ち、洗浄効果や殺菌効果が得られづらく、このことがカット野菜を加工する上での課題の一つとして挙げられます。しかし、これら野菜類を加工する上で、中性洗剤を用いて洗浄することで虫を取り、汚れを除去していますが、この中性洗剤を構成している界面活性剤には、水になじむ成分(親水基)と、油になじむ成分(親油基または疎水基)があり、この成分によって4つに分類されます。
<図1>そして、このアブラナ科の野菜類を殺菌するためには、この表面に付着しているワックス成分を除去し、水はじきを解消しなければ如何なる殺菌剤の効果も半減してしまいます。では、どのような洗剤を使用すれば殺菌しやすくなるのでしょうか?そこで色々と調べてみましたが、そのような角度で検証されたデータはなく、また知見も少なく、アブラナ科野菜類を殺菌するために適している前処理洗浄剤を、野菜表面に付着している微生物を除去し、殺菌するという観点から検証されたことは、どうも無いようです。そこで、この度この観点に立って検証試験を実施してみる事にしました。


市販洗剤に見る界面活性剤の配合割合
市販で購入できる家庭用洗剤を例に取りますと、複数の界面活性剤が配合されており、これらの用途は主として食器洗いであり、泡立ちの良いアニオン系のものから、昨今では泡切れを調整することができ、水質に左右されないノニオン系の配合比率が高まっているようです。その中でも代表的な市販洗剤<図2>の洗浄効果と殺菌効果を検証してみることにしました。
まず、各市販洗剤の特徴を確認するために、ラー油とごま油を混ぜ合わせたものを水に浮かべてから、ここに市販洗剤を滴下させますと油の乳化・分散・可溶化を比較することができます。そこで、この性質を用いてその効果を確認してみましたところ、以下<図3>のようになり、市販洗剤によっても、各種界面活性剤の組み合わせによっても、その効果が異なるということがわかりました。
また、この市販洗剤の中には、野菜・果実を洗浄(5分間)するという使用方法が用途として記されていないものもありますが、アブラナ科のようなワックス成分で覆われた野菜類を洗浄し、その後殺菌するとした場合、どのタイプの界面活性剤を用いて前処理した方が良いのかを確認してみる為に、4つの市販洗剤を用いて、水菜(アブラナ科)を洗浄してみました。
























水菜(アブラナ科)における洗浄と殺菌効果
水菜はカット野菜の中でも常在菌数が高く、しかも水はじきが強いため、殺菌しづらい野菜類の1つですが、前述の4つの市販洗剤を用いて5分間洗浄し、その後殺菌処理した後の菌数を確認してみましたところ<図4>、市販洗剤による洗浄後の菌数差はさほど無く、その後、殺菌処理を施しますと、菌数結果に違いが見られ、C社から発売されています、製品3、製品4では、一般生菌数、大腸菌群数ともに、殺菌効果が明確にみられています。
また、殺菌直後の水菜中の残留塩素を測定してみましたところ、水道水で洗浄したものと、各種市販洗剤で処理したものとの間には大きな差は見られず<図5>この事は、洗浄することでワックス成分が除去され、水菜に殺菌液の有効成分が浸透したからではなく、表面のワックス成分を除去することで、水菜の水はじきが無くなり、水菜の表面にのみ付着している微生物に対する殺菌効果が強まったからではないかと考えられ、やはり水菜の常在細菌の多くは表面に付着しているという事がわかりました。


まとめ
水菜、キャベツなどのアブラナ科の野菜の表面にはワックス成分があり、洗浄水や殺菌剤を自らはじいてしまうことでその殺菌効果が得られづらいという特徴があります。
そこで、これらアブラナ科の野菜類のワックス成分を除去する為には、実際には洗剤で前処理した方が良いのかどうかを、一般的によく知られている家庭用の洗剤を用いて確認してみました。
その結果、前処理洗浄はとても効果的であるということがわかり、また、この前処理に用いる洗剤としましては、アニオン系の界面活性剤100%で構成されている製品が最も効果的であり、次に、アニオン系の界面活性剤の配合量が多い製品の結果が良く、アニオン系の配合量が多い洗剤の方が殺菌助長効果が強い様です。
ただしその一方で、ノニオン系を中心とした泡切れの良さを特徴としている製品の方は、ワックス成分除去効果も、殺菌助長効果も得られづらいという事がわかりました。しかし、アニオン系の配合が多すぎますと、泡立ちが強く、洗剤成分を洗い流すための水洗い回数が多くなり、手間が増える可能性があり、カット野菜工場の自動洗浄ラインでは泡が残り、作業性が悪化する懸念があります。
以上のことから、レタス等は、野菜表面にワックス成分が少ないので、虫取り程度の軽度の洗浄で良く、泡立ちが少ないノニオン系の洗剤で処理してもなんら問題はありません。しかしながら、アブラナ科の野菜類や、水をはじきやすい野菜類や、浸透性の悪い野菜類の場合には、アニオン系を中心としながらノニオン系の界面活性剤をバランス良く配合し、ワックス成分の除去と、現場での泡切れの良さの両面に配慮している洗剤を用いなければ、これら野菜類に付着している微生物類を効率よく除去し、殺菌する事はできないという事なのです。
そして、これらの野菜類を処理する場合には、前処理洗浄はとても重要であり、泡切れの良さを求めるだけでなく、古典的ではありますが、アニオン系の効果を中心とし、ノニオン系の界面活性剤がバランス良く配合されている洗剤で前処理しておくことこそ、この後、殺菌しやすくなるという、とても賢い使い方だという事がわかりました。是非皆様も試してみて下さい。

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日本と米国の食品添加物の規制 (ポジティブリスト)の違いについて


米国における食品に直接添加できる物質

米国では食品に直接添加できる物質は、食品添加物、GRAS物質、着色料の3つに区分けされており<図1>特に食品添加物は、ポジティブリスト制を採用しており、アメリカ食品医薬品局(以下FDA)において、21 CFR(Code of Federal Regulations)のPart 172、Part173で定められています。また、食品添加物の定義外であるGRAS物質も、一般に安全であると認められているものとして広く公開されていますが、この米国で認められている食品添加物やGRAS物質と、日本で認められている物質は同一ではなく、両国において加工食品を輸出入する際には混乱を招くことが多々あります。なお、米国では1958年から、食品添加物のポジティブリスト制度を導入しましたが、これまで使用されてきた食品添加物の取り扱いをどうするかという議論が発生し、安全で毒性の無いものについては、GRAS物質として再び登録することとし、その後、再評価することによって、GRAS確認済物質というステータスとして登録することにし、ポジティブリスト化したようです。このことは日本国でも同様であり、日本の食品添加物の分類も米国のGRAS物質と同じく既存添加物として位置づけられています。また、米国、日本国のいずれにおいてもこのポジティブリストにないものについては、当然のことながら食品に使用することはできません。なお、米国ではGRAS物質の中からネガティブリストに移された物質(デラニー条項として)も存在する他、日本国でも順次食品安全委員会において再評価されています。


ポジティブリスト/ネガティブリスト
米国における食品に直接添加可能なポジティブリスト対象物質は<図2>の通りであり、21CFR Part172、173と、21CFR Part182、184、FDAに掲載されているGRAS物質の3本柱であると言えます。

米国、日本国の調味料(アミノ酸)の登録状況例21CFR Part172には、食品に直接添加可能な食品添加物が掲載されていますが、日本でも食品添加物登録が多いアミノ酸については以下の通りであり、日本で認められているもの、米国で認められているものとに分けられ、その登録の状況についてまとめてみますと、<図3>まず、21CFR Part172にアミノ酸として登録されている食品添加物は22品あり、これらは、日本国でも全て食品添加物として認められています。しかし、全体的な傾向としましては、FDAにおいてはアミノ酸などの食品評価は終了しており、食品添加物として掲載が完了している状況でありますが、日本国では、既存添加物と指定添加物が混在している状況のままです。しかも、日本国の既存添加物については、米国ではGRAS物質という立ち位置になりますが、古来から日本で慣例的に使用されてきた物質についてはGRAS掲載されている可能性はほとんど無く、申請しなければ、当然GRAS物質になることも、GRAS確認物質になることも無いと言えます。また、日本では調味料として使用されている「DL-アラニン」は、米国ではピクルス製造時の製造塩水に対するフレーバー剤としての用途に限定されており、この様にFDAでは、添加物を登録するだけで無く、一部に詳細な用途や使用方法を限定し、濃度、使用方法も規定しているものが多々あります。その一方で、日本国では、古くから登録されている物質であればあるほど物質名と用途を記載しているだけのものが多く、一般的な調味料として使用しているものが、米国では調味料として広く使用することが出来ない場合も多々あります。そこで、日本でも2003年7月以降、食品安全委員会が設置され、食品の安全行政が進んでいますが、中でも指定時期が古い物質については、十分に注意して使用する必要があるといえます。

まとめ

米国と日本における食品添加物の規制についてはポジティブリストを作成するという考え方は同じなのですが、登録されている状況は、若干の違いが見られます。また、日本国内で食品加工する場合には、日本国の添加物法規に従い製造することになりますが、そうして製造された加工食品を、海外へ輸出する、あるいは、海外で製造された加工食品を、日本国内へ輸入する場合には、どのような食品添加物を用いて製造されたのかということを十分に把握しておく必要があります。特に昨今は書類申請中に記載する事項も増えており、通関時などで、シップバックされる対象になる可能性も多く、現在の食品加工は、既に多国籍加工の時代に突入しており、原料と、加工地と、消費地は、別々の場所であることの方が多く、そのため、消費地における法令を確認しながら、加工地の法令に遵守して製造しなければならないという意識を持たなければならないということではないでしょうか?


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